103話 地下牢
「闇の神官様、お願いです。悪い奴らに天罰を下してください!」
男の子が懇願するように私に言いました。
闇の神官と呼ばれるのはモヤモヤするのですが。
今は非常時なので細かいことを言っている場合ではありません。
不本意ですが、闇の神官と呼ばれているままで行くことにします。
私の呼び方についてこの子に注意をするのは、この子の妹ちゃんを助け出してからにします。
「悪人には女神様が天罰を下すわ。安心して」
私は男の子を励ましましたが、ニーナが警戒するような固い表情で私に注意を促しました。
「ルネ、その子供はゴーレムの操縦者よ」
「うん、知ってる」
私はニーナに説明しました。
「あの子は妹ちゃんを人質に取られて、仕方なく悪い人の命令に従っていたんだよ」
逆らえない状況で、嫌なことを強制されることがいかに苦しいかを私は知っています。
神殿にいたころの私の場合は、逆らえないというのは思い込みで、やらされていたことは人助けに繋がることでしたが。
この男の子は妹を人質に取られているので本当に逆らえず、しかも悪事を行うことを強要されているのです。
同情を禁じ得ません。
「そうだったの?!」
ニーナが問いかけるように言うと、男の子は暗い表情で俯きました。
「うん。ごめんなさい」
「そっかぁ。人質かぁ……」
難しい顔をしたニーナに、私は予定を伝えました。
「ニーナ、妹ちゃんがあの建物の中にいるらしいから、私が助けに行って来るよ。ニーナはここで待っていて」
「え……」
ニーナは戸惑いを浮かべました。
「ここに一人で置いて行かれるのは心細いわ。私も連れて行って」
「あ、うん」
確かにそうかも、と思い、私は承諾しました。
ここは薄暗い裏通りです。
こういう雰囲気の通りには人攫いが出て来ることを、私は経験から知っていました。
ニーナを置き去りにするのは危険かもしれません。
「解った。じゃあ私の後ろから着いて来て」
私はニーナにそう言うと、一緒に馬車から降りました。
馬車から降りたニーナは、馬車の外にゴロゴロ転がっている男たちを見て目を丸くしました。
「す、凄い。もうこんなに倒しちゃってる。さすがはアレキサンドライト様!」
◆
「誰もいない……」
酒場のドアを開けて中に入ると、誰もいませんでした。
店内はがらんとしていて殺風景で、店員もいません。
酒瓶とグラスが、飲みかけのようにテーブルに放置されています。
「此処でお酒を飲んでいた奴らは、闇の神官様がさっき倒しちゃったと思う」
先程、外に出て来た男たちは、此処でお酒を飲んでいたのですね。
「……あのドアから、地下牢へ行く階段に行ける」
男の子は店のカウンターの奥にある扉を指差しました。
「でも廊下や階段は、悪い奴に会うかもしれないから気を付けて。一階にはギルドマスターの部屋もある」
男の子は表情を険しくして言いました。
「此処って何かのギルドなの?」
「うん」
「何のギルド?」
「闇ギルド」
「闇ギルドって何のギルド?」
「犯罪者のギルド」
(犯罪者のギルドなんてあるんだ……?)
私は男の子とニーナの先頭に立ち、カウンターの奥へと進み、そこにあるドアを開けました。
――ギイィ……。
そっとドアを開けると、廊下や階段を繋ぐ、狭いホールがありました。
ホールといっても少し広い廊下くらいのホールで、通り抜けの間です。
私は後ろを振り返り、男の子とニーナに目線で合図をすると階段を目指して進みました。
(地下牢は地下にあるよね。階段を下りれば良いのよね)
薄暗い階段を下り始めた私に、後ろから男の子が小声で注意を促しました。
「地下牢には見張りがいるよ」
「解った」
(悪そうな人がいたら、片っ端から眠らせちゃえば良いよね)
階段を下りると、酔っぱらいの男がいて、私たちを胡散臭そうに見ました。
「なんだ、お前たちは?」
男は酒瓶を持っていて、椅子に座っていました。
「眠れ」
私が光魔法を放つと、男は白目を剥いて椅子の上に崩れ落ちました。
同時に、男が持っていた酒瓶が男の手からするりと落ちました。
――パリン!
石畳に落ちた瓶が割れる音に、私は一瞬身をすくめました。
(壊しちゃった……)
悪いことをした気分になりましたが、すぐに気を取り直しました。
(人攫いが妹ちゃんを攫ったのが悪いんだから。仕方ないよね)
「た、倒したの……?」
男の子が確認するように私に問い掛けました。
「うん」
「凄いや。一瞬だ……」
「牢屋はあのドアの向こう?」
眠ってしまった男の向こうにあるドアを差して私がそう尋ねると、男の子は頷きました。
私は歩を進め、そのドアを開けました。
廊下があり、鉄格子が見えました。
鉄格子を覗き込むと……。
そこには男の子の妹らしき小さな女の子と、女性が二人、肩を寄せ合うようにして居ました。
彼女たちも人攫いに攫われたのでしょうか。
「お兄ちゃん……?」
小さな女の子がそう言うと、男の子が鉄格子に駆け寄りました。
「レナ!」
(この鉄格子、壊せるかな?)
「鉄格子を壊せるかやってみます。ちょっと離れていてください」
私は牢の中の人々にそう声を掛けると、鉄格子を両手でつかみました。
そして思いっきり引っ張りました。
「えい!」
――メリッ!
――バキン!
身体強化された私の腕力で引っ張られ、鉄格子がはめ込まれている周囲の壁が割れました。
そして鉄格子が枠ごと外れました。
――ガコン!
「ひいぃぃ!」
「うあぁぁ!」
どれが誰の悲鳴なのか解りませんが、みんながそれぞれ悲鳴を上げました。
私もちょっと吃驚しました。
鉄格子を引っ張ったら、鉄格子が折れるものと思ったのですが。
まさか壁が壊れるとは思っていませんでした。
鉄格子って意外と頑丈なのですね。
「さ、さすがはアレキサンドライト様……!」
ニーナの呻き声ははっきりと解りました。




