バルコニー(守人の場合)
何も語らない、何も答えない……そんな物言わぬ亡骸を眺めても仕方ない私は、次なる行動へ移る。
「さて……と、さっさとこの散らかった亡骸を処分しないとね」
転がるゴミの片足を無造作に掴み上げると、そのままズルズルと引きずって広間にある扉の一つへ向かう。
錆びた音と共に開かれる扉の向こうは、広間と同じ大理石でできた長い通路が続き、私はゴミを引きずりながらゆっくりと進む。
「そういえば、今日の天気はどうだったのかな?」
唐突にそんなことが気になったのには理由がある。それはこの先にあるエリアが……なんて考えている内には、いつの間にか通路の突き当たりにある扉の前に到着していた。
「よっと……」
空いている方の手を使って扉を押開くと、全身に激しく当たる強風によって出迎えられた。
「今日は少し風が荒いか?」
訪れた場所は、柵も手摺もない六角形状のバルコニー。
安全面には多少の難はあるものの、スペース的には中央にある大広間の半分くらいはある。
またバルコニーとするだけあって、ここから一望する空の景色は日々の鬱憤を少しだけ晴らしてくれると同時に、自身が立っている場所が空に浮かんでいることを実感させる。
「そういえばこの城って、私がやって来たよりもはるか昔から浮かんでいたはずだから、かれこれ…………いや、数えるのはやめておこう。頭が痛くなりそうだ」
無駄なことはやめ、さっそく本来の目的を果たすための行動を開始。
「悪いわね、待たせちゃって……」
片足を掴んだままになっている亡骸へ詫びると、そのままバルコニーの端にまで移動して眼下を見下ろす。
「あとは、ここから放り投げればおしまいか」
私は今生の別れとなる男の亡骸をチラリと見る。
「これで正真正銘のお別れになるけど、私を恨んだりしないでよ。こうなった原因は、あなたのどうしようもない弱さにあったんだから……」
哀れむようにそう言ってやると、片足を掴んでいた腕に力を込める!
「じゃあね……名前も知らない可哀想な人間さん!」
そして、適当な別れの言葉と共に亡骸を本当にゴミでも捨てるかみたいにバルコニーから放り投げた。
「よし、これにて本日の作業完了!」
天空城から落ちていくあの男が、どこにどう落ちるのかは私には知るよしもない。ただ出来ることなら、その無様な姿を誰に迷惑かけることもなく、ひっそりと朽ち果てて欲しいくらいは思っている。
「まぁ、落とした本人がそれを言うのはおかしな話か」
一仕事を終え、ふと空を見上げる。すると視界には青い空が広がっていた。
「……うん、悪くない空だ」
雲一つない穏やかな景色。その後、ひとしきりに眺めた頃に風が強くなり、私はその場を追い出されるようにバルコニーから立ち去るのであった。