第40話 夢:(9/10)
雲を越え、宇宙と空の合間に二人と一羽がいる。
足下は徐々に紺色に深まっていき白い星々が瞬いていた。そんな中、ユリエの声が響きわたる。
「分かったわ。貴方の名前は川崎ナオミさんね。水瀬エリちゃんと水瀬君の幼馴染みなのね。そして、この今の現象は川崎さんが引き起こしたのね……」
現在二人と一羽は自由落下に身を任せ、お互いに話し合っていた。
「ええ、エリちゃんに関口くんとは昔から同じ街に住んでいるわ。今も同じ街に住んでいるけど、最近エリちゃんには会っていないわね……寂しい」
「えーっと、川崎……今エリちゃんと関口くんって言ったわよね?」
「言ったわ」
「関口くんって誰? エリちゃんのお友達?」
ユリエの質問に対して、ナオミはショウを指さす。
その動作にユリエは目が点となり、今度はショウに話を振った。
「水瀬君……関口って名前なの?」
「……」
ショウは否定するつもりであったが、その言葉が出なかった。暗い表情見せる彼に、ユリエは問いかける。
「……水瀬君。それは水瀬君が答えたくないこと?」
彼女は真剣な表情ながら、優しい声音で問いかけた。今まで違う彼女の対応に、ユリエがこの前話した協力関係のことを思い出した。
「……すみません。まだ、自分でも答えが出ていないことで……」
「……分かったわ」
ユリエは頷き納得してくれる。すると、今度はデーブがウサテレの映像の中に現れる。
「それにしても、この天と地がひっくり返った現象。そのゴスロリガールの力で引き起こしたのか? そうなると、結構まずいんじゃないか?ミス・ユリエ」
「……ええ、確かにまずいかもしれない」
デーブの言葉にユリエは考え込む。
「何がまずいんですか?」
二人の会話にショウは反応する。その問いにデーブが答えた。
「このゴシックガールが、この世界の設定を書き換えたんだ。つまり部外者が、夢物質の法則を書き換えたんだよ」
「えーっと……つまりどういう……」
ショウが聞き返すと、デーブではなくユリエが簡潔に答えた。
「エリちゃんが弱っているかもしれないってことよ」
ショウは驚く。
「エリちゃんが!? どうして?」
「私達の研究のデータから、基本的に部外者は対話や接触などの行為は行えるけど、本人や夢物質の法則や概念には逆らえないはずなの」
「……つまり、僕達はエリちゃんの夢の法則を変えることは出来ないってことですよね? 今回ナオちゃんの力で夢物質や僕達は打ち上げられた。それで、原因は今までの話から察するに病気のエリちゃんが弱ってるってからってことですよね?」
ショウが話をまとめると、ユリエは頷く。それを確認した後さらにショウは続ける。
「でも、それってちょっと変じゃありませんか? 前に見た恐竜世界で、南方もあの世界メチャメチャにしてたじゃないですか。もしかして……あの時からエリちゃんは弱っていたってことですか?」
「ああ……そういえば言っていなかったわね。良い機会だし機密に引っかからないから伝えておくわね。今まで出てきた南方ダイチ……彼は、エリちゃんの作り出した夢物質よ」
「え……」
その言葉にショウは目を丸くする。
「どういうことですか? 南方が夢物質って……あの人は僕達と同じ部外者じゃないんですか?」
「確定とは言い切れないけど、ほぼ間違えないって判断にこちら側ではなっているわ。日本にいるエージェントが現実世界にいる南方ダイチと接触して彼とコンタクトを取った。その結果、彼はこのエリちゃんの夢に対して一切覚えていなかった」
「いや、だとしてもおかしいですよ」
ユリエの言葉に、ショウは反論する。
「そんなこと言ったらモエカさんだって夢のことを覚えていないって言っていましたよ! 貴方達は現実のモエカさんに出合って、夢の出来事を覚えていたって言っていましたけど……僕が出合った時は全然僕のことも覚えていませんでした」
そこでショウは頭を抱える。
「ずっとこうだ! ずっと話が噛み合わない! もう、いい加減にしてほしい! いったいこの夢はどうなっているんだ! もうこれは、ただ僕を惑わすだけのただの嘘だらけの夢なのか!」
彼は叫んだ。
それを見た皆は、誰も押し黙り何も答えずにいる。
そうしていると、大気圏を抜け皆は宇宙空間へ放り出された。太陽は眩しく輝きショウ達の上には黒い宇宙に浮かぶ青い大きな星が浮かんでいた。
会話が出来るということは空気はあるが、それはとても気まずい空気を取り囲む二人と一羽であった。しかし、その空気を読まずにデーブが画面越しに下の方を指をさす。
「おいお前等! あれを見ろ! あれ!」
一同は一斉に徐々に離れていく地球とは反対方向に目を向ける。すると、宇宙空間にゴスロリファッションに身を包んだ少女が漂っていた。
それは正しく水瀬エリであり、彼女は無重力に身を任せて黒髪でロングツインテールがヒラヒラと衛生のように伸びたり曲がったりしていた。
「エリちゃん!」
ショウがさっそく声を掛けるが、返事をしてこない。意識が無いようで、ふんわりと何もない空間に漂っていた。
「どうしてこんな所に……しかも意識が無い……話は後にしましょう! 今は早くエリちゃんを……本人を回収するわよ!」
彼等は無重力の中、何とかエリに近づこうと体を動かすが思うように体が進まなかった。しかし徐々に地球から離れつつ、コースは少しズレているが着々とエリには近づいていた。
そこで彼は有りっ丈のリーチを活かすことにする。
ショウの右手は[剣心]へと煌めかせ、刃の腹を両手で挟み剣の柄をナオミに掴ませる。ナオミは柄を持つ反対の手で、持っていた日傘を伸ばし両手を広げた。
傘の先端にはウサテレが捕まり、長い耳を触覚のように蠢かしエリを捕まえるよう構えた。
そして、その作戦は成功を収める。
「やったぜ! 本人を捕らえたぜ!」
デーブの言った通りウサテレの耳でエリを挟むことに成功する。後は皆で手繰り寄せあい、彼女を回収すれば良い。
「……」
捕まったエリは、起きる気配がなくされるがままに引っ張られていく。
「エリちゃん! 起きてよエリちゃん!」
「エリちゃんはどうしたの?まさか死んでたりなんか……」
不安に駆られる少年少女達だが、ウサテレからキーボードを打つ音が聞こえ、ユリエが様態を答えた。
「……大丈夫。もちろん死んではいなわ。だけど、あまり良い状態でもないわね」
「どういうことなんです?」
「本人が休止状態に入ってる。何とか実体を形成してるけどって感じ……この様態のパターンから精神的なショックが考えられるわ。水瀬君、何かエリちゃんに対して見に覚えはない?」
ユリエに質問され、ショウは今朝の出来事を思い出す。
「……エリちゃんは、以前の夢のことを覚えてました。それで……モエカさんとカイトくんは自分のせいで、夢の中で死んでしまったんだって言っていました。その後、自分の部屋に引きこもって……」
「間違いなくそれが原因ね……迂闊だったわ。ちゃんとエリちゃんにも、あの時伝えておけば・……やはり清白さんもここに着てもらった方が良いかもしれないわね。もしくはテレビ電話を使って……」
「ちょっと待ってください! モエカさんが来るっていったい!?」
聞き捨てなら無いワードが耳に入り、ショウが驚く。
その反応を見たユリエは、珍しく微笑む。
「ええ、まだ検討の段階だったわ。でもエリちゃんの様態が悪化しつつある今、心が不安定である彼女に利く一番の薬は支えになってくれる人だと思う。現実世界の清白さん、出来ればカイトくんに……幼馴染みの川崎さんも着てくれると助かるの」
「私も?」
ユリエの誘いにナオミは反応する。
「ええ……ここの研究施設はアメリカにあるのだけれど、移動費や宿泊費なんかはこちらで全部負担するわ。川崎さんは学生さんよね? もし差し支えがなければ両親にも相談するし、こちら側から学校に頼んで休み取れるように手配するわ。どう? 今の段階だと口約束になってしまうから、今日中にエージェントに訪問させるわ」
その申し出に、ナオミは驚くどころか笑みを浮かべる。
「面白そうね。私は行ってみたいわね。そこに」
「それじゃあ、了承を得たってことで良いわね?」
「ええ、こちらこそよろしくお願いするわ」
楽しそうに話す二人を見て、ショウは疑問に思う。
「……ユリエさん」
「何かしら水瀬君?」
「……エリちゃんは、日本に居るんですよね?何故わざわざアメリカまで行く必要が?僕達の家に皆が集合するって方が、モエカさんにカイト君、それにナオちゃんだって気軽じゃないかと思うのですが」
「そ、それは……」
「……僕も、アメリカに連れってくれませんか?」
思い切ってショウが、ユリエに提案を持ちかけた。
『モラッタアアアアアアアアア!!』
南方の雄叫びが、宇宙空間に広がった。それと同時に猛スピードで大きな何かがショウ達にぶち当たる。
「きゃあ!!」
「うわあ!?」
当たった衝撃で、ナオミとショウはとっさに抱き合い体全体が宙返りを繰り返すように回り始める。
空気摩擦の無い空間で、止める術も無いまま彼は状況確認をしようと伺う。回る視界の中彼が目にした物は、翼からバーナーのように青い火を噴き高速で移動する巨人の南方の姿だった。彼は左手で《《気を失うエリとウサテレを掴み》》、ドンドン距離を離していく。
『フハハハハハハ! ヤッタゾ! ツイニ捕マエタゾ!』
彼の笑い声が響きわたる。回る視界の中ショウは必死に人差し指をさし、南方に標準をあわせた。
「待て!! 南方!!」
右手に[閃光]と文字が浮かび、幾多もの光の線が南方に向かっていく。しかし……閃光達は南方を追いかけ真っ直ぐ伸びていくが標準が、微妙にズレており彼に追いつくことが出来ない。
「クソ! エリちゃん! ユリエさん! デーブさん!」
徐々に回転が収まっていきショウは叫び続ける。だが、彼の声は黒い空間にむなしく響くだけであった。




