第41話 夢:(10/10)
ショウとナオミは手を繋ぎ、冥王星を抜け更に海王星も抜けていく。
「地球から海王星までの約44億キロメートル。僕達がここまで飛んで来るのに数時間かかった。そう考えると僕等の飛ぶスピードは光の早さか、それ以上だってことになるね」
「ウフフ、私達二人っきりで光速に飛んでいるのね。とてもシュールだわ」
「光速で僕達が飛んだら跡形もなくなっちゃうんだけどね……まあ、夢の中だし……」
ショウは溜息を吐きながら何もない黒い空間を周りに見える星々を見つめながら漂っていた。
「早く夢から覚めなくちゃ……」
蘊蓄を語っていたショウ。だが、内心焦りがにじみ出ていた。
エリが南方に連れ去られ、早くエリの様子を確認しなくてはならない。だが、夢から目覚める為の白い光の扉が何処を向いても見当たらないのだ。
「……目を覚ましたいの?」
「え?」
考え込むショウに対してナオミは質問した。
驚きつつ質問に対して彼は頷いた。
「当たり前だ。現実でエリちゃんが無事かどうか早く確認したい。ウサテレも一緒にさらわれていったから、南方もそう簡単に連れ去れるとは思えないけど、それでも……」
話していて自ら俯き始めるショウ。
「……関口くんは、早く目覚めてほしいのね」
「ナオちゃん……君はそうじゃないの?エリちゃんが心配じゃないの?」
彼が聞くと、今度はナオミが俯く。
「心配よ。でも、心の何処かでこれは久々に二人と会えた不思議で楽しい夢だって思っているわ。だから覚めてほしくないって思ってる」
そうナオミが答えると、彼女は無重力の中でショウの服をそっと掴みと向かい合う。
「……ナオちゃん?」
「目覚めてしまったら、この夢で起きたことを……関口くんとまた話せたことを……忘れてしまうかもしれないから」
無音の黒い空間の中で彼等は漂い、そしてナオミの声だけが響きわたった。
「起きても母親は仕事でいない……学校にも話す友達なんていない……夢の中だけど、久々に誰かと話せて……貴方と話せて、本当に楽しかった」
「……」
掛ける言葉が思い浮かばない。
すると突然、ショウ達の頭上から光が照れし始める。見上げるとそこには見覚えのある光を放つ扉であった。
「関口くん、あれは?」
「あれは……現実世界への扉」
と、彼は呟く。
だが、彼等の進行方向とは少しズレた位置に生成された。モガいたところで進行方向を変えることが出来ず、このままでは通り過ぎてしまう。
「ダメだ。何とかしてあそこに行かなきゃ!」
「……そろそろ時間みたいね」
「え!?」
ナオミは、更にショウに顔を近づける。
「ナオちゃん?」
「私は貴方のことが嫌い」
「え?」
またしても突然のカミングアウトに、面食らうショウ。しかし、その言葉とは裏腹、ナオミはジッと彼の瞳の中をのぞき込む。
「貴方のこと、ずっと嫌いだった。初めて会った時も、こんな格好をしている私をエリちゃんと一緒に受け入れてくれたこと。いつも口数少ない私に気を使ったり、優しくしてくれることが、とてもとても煩わしくて大嫌いだった」
「そ、そんなこと……いきなりそんなことを言われても……」
「貴方は……私のことは嫌い?」
またしても突然の質問に、ショウは戸惑いながらも答える。
「……好きかどうかって聞かれたら、好きだよ。君のこと」
まるで、彼女を叱るようにジッと彼は見つめ返す。
「君からどんなに嫌われようとも、僕にとってナオちゃんは大切な幼馴染みなんだ。嫌いになる訳がないだろ?」
彼は素直に言い切る。
ナオミは笑顔を作り、顔を伏せた。
「そんな貴方も大嫌い」
「だからこんな時にいったい・……んんっ!?」
真っ暗闇の世界。
遠くで白く小さな星々が音もなく瞬いた世界で、
胸に手を当てられ、ショウはナオミに口を塞がれる。
彼女の柔い唇の暖かさを感じ取り、
彼女の吐息と自分の心臓音のみが彼には聞こえた。
たった数秒の出来事だったが、少年達はまるで時が止まったかのような錯覚を覚える。
ゆっくりと口を離したのはナオミだった。
「これが私の能力……」
彼女がそう言葉を発した途端、ビー玉同士がぶつかったように弾かれ二人の距離が一気に開く。
ショウは光の扉へと吸い寄せられ、ナオミは先の見えない宇宙の闇へと向かって行った。
「ナ、ナオちゃん!!」
ショウはとっさに手を伸ばすが、到底届く距離ではない。
そして、彼の黒い包帯の巻かれた右手に文字が浮き上がっていた。
「関口くん。私は願うことしか出来ないけど……ずっと……応援してるよ」
彼女のゴシックドレスがユラユラと揺らめき、か細い声が徐々に掠れ消えていく。
「ナオちゃん! 待って!」
白く、白く、視界が染められていく。
最後に見えたのは、手を振り笑っていた彼女の姿と――
右手に刻まれた[反転]の文字だった。
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