第15話 夢:(9/10)
巨人の腕についてトリケラトプスの頭が、突然地面に落ちる。
頭は痙攣し徐々に胴体を形成し始め、図鑑で見たことのある象ほどの大きさで、完全な四足歩行のトリケラトプスが誕生した。トリケラトプスは、明確な敵意を持ちながらショウ達へと全力で突撃してくる。
「うわっ!?」
脊髄反射で、ショウはトリケラトプスの角を右手で掴み抑える。
「くらえ!」
そのまま彼はトリケラトプスを持ち上げ、巨人に投げつける。だが、巨人は意図も容易く飛んできた恐竜を払い落とした。
「お兄! 左! 左から!」
「え?」
巨人の様子を見ていた最中、死角から大口を開けたティラノサウルスが襲いかかってくる。彼は咄嗟に頭へ拳を叩きつけ、ねじ伏せるが――
『ヒャッハー! 隙ダラケダ!』
巨人の胸部についたティラノサウルスの頭から熱線を吹き出す。熱線はビームのようにショウへと伸びていく。
「ク、クソッ!」
ショウはその場から飛び退くと、熱線は地面を抉り上げ爆発する。
『オ前ノ右手ノ対策はシテアルンダヨ !数ガ多イト、オ前ハ対処出来ナインダ! アヒャー!』
黒い包帯から生み出される怪力は、確かに相手を一撃で沈める程の力や応用力がある。だが、ショウも崖に捕まっている時には気づいていた。
右手以外の体の部位は、本来の身体能力と変わっていなかったのだ。
右手以外は、怪力の能力は使えないのである。
『オラオラ! ドンドン行クゾオラ!』
体から多数の小さな頭を振りまく巨人。その頭は体を形成し、最初に出会った恐竜ラプトルとなる。ラプトルの群は、前方にいるショウと後方のエリやモエカ達に突撃していく。
「エリちゃん! モエカさん!」
焦りが隠せなかった。
非戦闘員であり不調のウサテレを抱えたエリと負傷しているモエカでは、あの数を捌く事など出来る訳がなかった。ショウですら3、4体に囲まれ苦戦をしていた。
ラプトルの1体が噛みつこうとしたのを彼が凪ぎ払うと、もう1体が凪ぎ払った右肩に噛みつく。さらに念を押してくるように左腕にも噛みつかれ、拘束されてしまう。
彼の焦りは最高潮に達し、後方の彼女等に声を上げた。
「二人共、逃げ――」
声を上げたその時だった。
突然ラプトル達の首が胴から離れたのだ。
さらに追い打ちとばかりに、離れた胴にニンジンが刺さり爆発した。
呆気に取られるショウの背後から、近くに居たラプトルが噛みつこうと襲いかかる。が、一筋の残光と共に縦から真っ二つされてしまった。
彼が気づき後ろを振り向くと、そこには刀を納めるモエカの後ろ姿があった。
「この程度の相手なら……私が捌いて見せる」
「モエカさん!? その怪我で大丈夫なんですか!?」
「ああ、ショウ……もう、あっちは片が付いている」
モエカが指し示す方を彼が見ると、バラバラに積もったラプトルの残骸。二人に向かって手を振るエリ、そして地面に降りデーブの姿を映し出したウサテレが居た。
「お兄ー! ウサテレ復活したよー!」
「悪かったなジャップボーイ! チューニングの調整で遅れちまったぜ! だが、俺様が来たからには、この戦いは勝利以外はありえない! 何せ俺様は! 天才エンジニアであり、FPSランカーで最高にクールなデーブ・ブラウン様だからな!!」
「デーブさん! 戻って来てくれたんですね!」
「またデブって言ったなこのクソ野郎!!今、お前もろとも葬り去ってやるから待っていろ! この……」
画面内で激怒するデーブを押しのけ、マイクを掴んだユリエが現れる。
「水瀬君!」
「ユ、ユリエさん!?」
「水瀬君! 早くそこから逃げなさい! そこにいる相手は、南方ダイチっていう凶悪犯よ!」
「凶悪犯!? な、何の犯人何ですか?」
「何って……上野公園連続通り魔事件のよ!」
ユリエの予想外の言葉に、ショウは驚きを隠せなかった。
聞き覚えの無い事件名と、どうしてそんな犯罪者がこんな所にいるのか。こんな危機的状況で突拍子もない情報達に戸惑ってしまう。
「上野公園……連続通り魔だと?」
「モエカさん、その事件を知っているんですか?」
後ろにいるモエカは、黙って頷く。
「病院の受付のテレビでチラッとな……だが、詳細は分からんが……」
どうやら、テレビで放映される程の事件らしい。
そうこうしていると、巨人改め、南方ダイチはニタリと笑みを浮かべながら恐竜達を生成し続けていた。
「おい! ファッキンジャップボーイ! 邪魔だからとっとと失せろ! さもないと、そこのデカ物ごと破壊させるぞ!」
上野公園の話の詳細を聞きたい所ではあるが、そんな時間は無さそうである。
例の夢から目を覚ます扉を探す為にこの場をウサテレに任せ、逃げた方がショウ達にとっては一番安全だ。
だが南方の繰り出す、底無しの恐竜生成能力と熱戦の遠距離攻撃に爆弾を飛ばせるウサギ1羽で何とかなるとは正直思えなかった。
負傷したモエカも小型恐竜なら戦えるが、一緒に逃げ続ける持久戦は到底無理であろう。
エリなんて戦える能力すらない。
なら、ショウ自身の能力なら……
どんな物体や質量でも、支え、耐えることが出来るとんでもない怪力。数には対応出来ないが、掴めば一撃で相手を戦線離脱させる豪腕なら……
対策の為に数で相手は押してくるが、逆に対策しなければならない程、強力であることの証拠である。
「皆を確実に救う方法は……これしかない」
ショウは息を吐き――
「モエカさんは、皆の所に戻ってエリちゃんを守って下さい。ウサテレには広報から僕の援護をしてもらえないかと言ってくれませんか?」
「お前は……何をしようとして……」
「あの巨人のふところに飛び込んで倒します。この右手で……」
最後に「お願いします」と伝えた彼は、モエカの答えも聞かずに走り出した。
「ショウ! そんな無謀な・・・・・・」
ドンドン彼女の声と距離が離れていく。




