第14話 夢:(8/10)
画面内の二人は言い争いを始めており、ウサギの体についたテレビを子供達は黙って見ていた。
「おーい……ダメだ聞いていないみたいだ。何やら、あちらも大変みたいだな」
「まだ、いろいろ聞きたいことが沢山あったんですけどね……どうして僕達がエリちゃんの夢に集められているのかとか、この黒い包帯のこととか……」
自身の右手に巻かれた黒い包帯を眺めるショウ。そして、そこに浮かび上がる[剛腕]という漢字。その能力。
全てが謎のままである。
「お兄……モエカさん」
ショウとモエカが話し合っていると、エリが声を掛けた。
二人が振り向くと、エリの後ろ姿がすぐそこにある。
「どうしたエリ?」
「あのキモイ奴がいない」
キモイ奴と言われ、何のことだか分からず硬直してしまう。だが、気持ち悪いことで思い当たるのは、最近事象だとあの黒い皮膚の人面恐竜しか――
「あの黒い恐竜の死体がない!?」
ショウは驚き辺りを伺っても、どこにもあの大きな図体の恐竜が見当たらなかった。
「どこに行ったんだ? もしかして、倒されて消えたのか? ゲームみたいに?」
「……何か嫌な予感がする」
モエカの顔は険しくなり、体を強ばらせる。
その時だった。
「うわっ!?」
ショウの小さな叫びと共、熱を帯びた光の壁が周囲を一気に遠くから押し寄せてくる。
「皆! 危ない!!」
動けたのはモエカ一人だった。
彼女は一番近くに居たエリを片腕で抱え、もう片腕でショウを庇う。ウサテレを二人抱えたまま何とか手で掴み上げ、岩の陰に隠れようとする。
だが、それで難を逃れることは出来なかった。
光の壁が物質に当たると、とてつもない力で押し壊せていく。木々は吹き飛び、草木消滅し、土をもえぐり粒子となって飛び散っていった。
光は徐々にモエカ達へと押し寄せ、やがて――
「「うわああああああああああああああああ!!」」
彼らを吹き飛ばした。
……
「……ここは」
ショウが起きあがると、空は黒い雲に覆われ、赤い光が地上から照らしていた。
辺りを見渡すと草木がなくなり、代わりに黒いヒビ割れた大地と赤く脈打つ溶岩が吹き上がっていた。
「これは……いったい……」
さらに周囲を見渡すと、近くにエリとウサテレの姿があった。
「二人とも!」
「うっ……うーん……」
「(・×・)」
エリは、意識を取り戻し起きあがる。
ウサテレからは、ブラウン管の角が欠けており応答がないものの、画面には時々ノイズとウサギの顔を模した顔文字が浮かび上がっていた。
「……お兄、モエカさんは?」
「分からない。いったい何処に……」
兄妹二人で辺りを隈無く見回すと、離れた所に誰かが横たわっていた。誰だかはすぐに分かった。
「「モエカさん!」」
兄妹は、すぐに駆け出す。
ウサテレを置き去りにしたことに気づき、エリは一度立ち止まって回収しに戻りショウの後を追った。
「モエカさん!」
一足先にたどり着いたショウは、モエカを見下ろす。
顔を含めた人身には火傷と木や石の破片で出来たであろう傷が、見るに耐えない程出来ていた。
「……ショウ、か?」
何とか声を出す。
だが、すぐに咳き込んでしまい長くは話せない。
「モエカさん! ど、どうすれば……とにかく応急手当を!」
「いや、いい……切り傷が多い程度だ。問題はない!」
そう言うと、彼女はボロ雑巾のような体を無理矢理動かし、気力を振り絞って立ち上がる。
「そ、そんな!? 無理しちゃダメです! 僕がモエカさんを運びますから、動いては……」
「大丈夫、これぐらいで!」
彼女の左腕に巻かれた黒い包帯が光り[剣心]の漢字を浮き上がらせる。すると日本刀が光と共に生み出さされ、モエカは松葉杖のように地面に突き刺してゆっくりと立ち上がった。
「モエカさん!」
エリもウサテレを抱えて、ショウに追いつく。
「モエカさん酷い怪我……」
「エリ……心配するな」
心配するエリの頭ゆっくり撫でるモエカ。
痛みを堪え、息は荒いが何とか立ち上がることが出来る。
「僕の肩を貸します。ゆっくりで良いので僕にもたれ掛かって下さい。一緒にこの夢から抜ける扉を探しましょう」
「そんな……気を使うな」
「僕達はパートナー。忘れたんですか?」
「ショウ……ありがとう」
モエカは口元が緩み、ショウの肩に腕を回す。ゆっくり前に進みつつ、不安そうにエリがショウに訪ねる。
「お兄……どうしてこんな状態に?」
「……分からない。さっきに光のせいでこうなった……あの光はいったい」
二人は不安を抱えつつ前に進む。
とにかく、この夢を終わらせなければと周りを見回していく。
その時だった――
『オオ、以外トシブトイ奴ラダ。マダ、ウゴケルノカ!』
耳障りな聞き覚えのある声が、二人の後ろから響いた。
彼らがゆっくりと振り向くと、大きな人型のシルエットが見えた。
10メートル程の高さの巨人が徐々に姿を現す。姿をあらわにした時、皆言葉を失った。
胸の部分にはティラノサウルスの頭。
右手にはトリケラトプスの頭。
左にはブラキオサウルスの長い頭。
頭、頭、頭……全てのパーツが、恐竜の頭によって構成され、それぞれの頭はまるで生きているかのように何かを探し求めて忙しなく動かしたり、瞬きしたりと蠢いていた。二足歩行の滑稽でいておぞましい巨人の頭には、案の定例の男の大きな頭が乗っかっていた。
『マァ、殺サナイ程度ノ爆発デ抑エタンダ。何デカ分カルカ?』
小馬鹿にした顔で、表情を歪める男はそのまま体を威張るように仰け反らせる。
『コレカラ、オ前等ヲタップリト遊ビ殺スカラダヨ! フヒヒャッヒャヒャ!』
男の高笑いと共に、恐竜の頭達が一斉に咆哮を上げた。さらに、胸部についたティラノサウルスの頭からは光の柱のような熱線が吐き出された。見るからにショウ達を襲った光その物だった。
「そんな……こんな所で」
ショウは、体に力を込める。
ここからが、本当の悪魔だと悟ったからだ。




