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ホームレス魔法少女~Magic girl lost one's Home~  作者: あかむ
第六章 既知の果てを求むもの
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第五十五話

――パァン!


 銃声が、甲高い破裂音が響く。火薬の臭いが車内に充満し、撃ち抜かれた腹部が紅く、赤く周囲の服を濡らす。僕に拳銃を突き付け、引き金を引いた警官が、何が起きたか分からないといった様子で、衝撃かあったであろう腹部を押さえ、赤く染まる手を呆然と見る。


「ぁ?ぁあ……ギヤァァアアぁぁぁ!!」


 ッ!急な詠唱破棄で魔法を発動させたせいで、弾いた弾丸の軌道まで設定する余裕が無かった。弾かれた銃弾はそのまま僕に銃弾を放った警察官の腹部を貫き、車のドアにめり込んでいる。最初は呆けていた警察官も、湧き上がる激痛に事態を把握したのか、悲痛なまでの絶叫をあげる。傷が心配だけど、かと言って比較的簡単な魔術である身体強化魔術以外まともに使えない僕に、治癒魔術なんて高等魔術使えるはずもない。

 しかし、僕に彼を心配していられる余裕も、猶予も残されていなかった。銃声と、悲鳴をあげた警察官。この二つの要素から、他の警察官は至極当然にある結論を出す。

 つまり、この警官を撃ったのは僕だ、と。


「う、撃たれた!?コイツ武器を持っているぞ!」

「ヒ、ヒィィぃ、助けてくれ!やっぱりこいつら化物だ!」

「――ッ!撃ったのは僕じゃないっての!」


 ああ、くそっ、まさかいきなり射殺しようとしてくるとは思わなかったよッ!いきなり眉間に拳銃を突きつけて躊躇いも無しに引き金を引くなんて、本当に日本の警察か!?まるで違う世界に来たような違和感を覚える。

 ともかく、このままここに居ても状況が良くなるとは思えない。悲鳴をあげ続ける警官を押し退けて、僕は何時の間にか止まっていた車から転がり出る。


「急げッ!包囲しろ!逃がすなッ!!!」

「相手は拳銃を持っている可能性がある!射線には注意しろ!」


 車から出ると、すぐに周囲をパトカーが囲む。異常な運転と無線で事態を把握しているのか、彼らの行動は素早い。パトカーの車体を盾にして半身を出し、皆が一様に拳銃を構えている。その照準は、僕だ。


「…………」

「手を上げてその場に座れ!早くしろ!」


 彼らが僕を包囲していれ隙に小声で詠唱して、詠唱破棄で発動していた魔法を通常の発動に切り替える。持続時間は十数分、といったところだろう。魔獣と戦うならまだしも、人間相手から逃げるだけなら十分すぎる時間だ。


 (それにしても……)声を上ずらせ、張り上げる警察官を無視して僕はぐるりと周囲を見回す。目が合った警察官達は、皆一様に身体を緊張に強張らせ、怯えた表情を見せる。

 ……やっぱり異常だ。さっきまでは逮捕された動揺でそこまで気にかける余裕も無かったけど、改めて見れば彼等の状態は普通では無い。確かに魔法は超常で未知の力だけど、いくらなんでも怯え過ぎている。少しでも彼等の様子からこの違和感の原因を探ろうとした瞬間――


「竜胆さん、待って下さい!」

「……朝日、さん」


 背後から声を掛けられる。やっと車から這い出してきた朝日さんが、必死の表情で訴えかける。彼の様子を改めて見ると、確かに僕に対して恐怖や警戒心を持ってはいるけど、それは通常の範囲内だ。他の、明らかに混乱し、パニックを引き起こしている警察官とは様子が違う。


「……朝日さんはまだ比較的マトモですね。なら、これで止めることなんて出来ないって分かりますよね?」


 少しおどけるようにしてもう一度ぐるりと辺りを見回す。魔法が展開されている限り、万が一でも彼らに僕を止める事が出来る能力があるとは思えない。


「……それでも、止めます。貴女が行った事は許される事ではありませんが、罪は償う事が出来る」

「アハハ、流石は正義の味方を目指すだけあって、言う事が正論ですね」


 正論で、理想論だ。苦笑し、茶化すような僕のその言葉に、少しだけ眉をひそめる朝日さん。


「……すみません、馬鹿にするつもりでは無いですけど」

「……ここは大人しく捕まってもらえませんか?正直言って、今の我々の装備で貴女をどうこう出来るとは思えない」

「……それもごめんなさい、ですね。悩んだけど、僕にはやらなければいけない事がある。捕まる訳にはいかないんです。

「貴女は一体何をしようと――!」

「朝日さん、僕の子供の頃の夢、教えてあげます」


 説得を続けようとする朝日さんの言葉を遮り僕は言う。


「正義の味方に、なりたかった」

「――――ッ!」

「復讐でもありました。だけど、あの切り裂き魔を止める事が出来たのは僕だけだった。なら、僕がやるしか無いでしょう」


 魔法に触れ、幾らか強くなった今なら分かる。あの切り裂き魔を止める事が出来る可能性があったのは、恐らく今この地球上では、僕とアーニャ、“前知の魔女”、そして敵である“界渡りの”、“九尾の”の魔女達だけだ。それも僕とアーニャでは1対1での勝率はそこまで高くないだろう。身体強化の魔術の練度、武器の扱い、戦いの経験。それらのどれを取っても高い水準で磨き上げられて居て隙が無い。実際に僕が勝利する事が出来たのも、ティアナちゃんの介入があったからに他ならない。魔法を解除した訳でもないのに、破られたのは不可解だけど、それでもあの頃の僕に勝率は殆ど無かった。

 しかし、それでも万に一つと言え可能性があって、止める意思があったのは僕達だけだ。ならばあいつを止めなきゃいけないのは、僕達だ。


「貴方がなりたかったものはそういうもので、僕がなりたかったのはそういうものです」


 その言葉と共に、なるべく派手に、地面を吹き飛ばす様にして空に飛び上がる。一瞬遅れて叫び声と悲鳴があがるのがやけに遠くに聞こえた。




◆◇◆◇◆◇




「ハッ…… ハッ…… ふぅ……」


 ここまで来れば大丈夫だろう……。距離にして数キロ、2駅分離れた街の地面を僕は自分の足で歩く。高層ビルの屋上から屋上に飛び移るようにして移動したので、魔術の助けがあったと言え疲労はかなり重い。忍者か、蜘蛛のヒーローになった気分だよ。かといって地上を人間が車並みの速度で走ったりしたら、間違いなく騒ぎになるから仕方ないんだけど。


「はァ、とりあえず、アーニャかエランティスからの連絡でも待とうか……」


 街の中心部を流れる大きな川に掛かる橋の手すりにもたれながら、僕はため息と共に独り言を呟く。何となく川を覗くと、都会の川だからだろうか、透明感など欠片もなく、酷く無機質に見える。いや、それは僕の気分がそう見せているだけか。

 とりあえず二人に会って、それから、どうしようか。まずはあの警察官達から感じた違和感に心当たりが無いか、それと、今後の僕の所在と身の振りを――


――パァン!


 これからの事についてあれこれ考え事をしていた僕の耳に、どこかで、いつか聞いた破裂音が響く。同時に腹部を何か細い棒で思いっきり突かれたかの様な違和感。――そして追って広がる激痛。

 今度は間違いなく撃ち抜かれた僕のおなかの辺りが、紅く滲み周囲の服を濡らす。


「――は、っ?」


 え、何?何が、起きた?撃た、撃たれ、た?


「あぁ、まさか本当に来やがるとはな。魔法ってのは恐ろしいもんだぜ」


 声が聞こえた方に顔を向けると、詰まらなさそうにこちらを見下ろす強面の警察官、剣持と呼ばれていた警部だ。その手には、硝煙を上げる小型の拳銃が握られている。そこで初めて、僕は本当に拳銃で撃たれたのだと実感する。それまでは混乱と動揺から、漠然とわき上がるように感じていた痛みが、確かな指向性を以て僕の脳に悲鳴を鳴らす。痛い……痛い、痛い痛い!あまりの痛みに吐き気がこみあげてくる!


「いッ、ぶ、おぇ……」

「痛ぇか?痛いのか?お前たちは“魔女”と言うんだろ?“魔女”でも痛みはあるのか?血ィ流し過ぎたら死ぬのか?」


 激痛に喘ぎながらも、何とか耳に入った剣持警部の言葉を噛み砕く。今、なんて言った?魔女、だって?僕が普通の人間じゃない事は映像を見たのならば、信じ難くても理解は出来るだろう。だけど、だからと言って魔女という言葉が出てくるはずがない。そこで初めて、事態が急変した理由に偶然以外のものが関わっていることに気付く。


「なん、で、魔女(ぼくたち)の事――」

「お前らの同業者さんからのタレコミだよ。何て言ったかな?前知の魔女って言ったか?」

「――――ッ!?」


 そして、その原因はあっさりと明かされる。


 ――前知の魔女、その名を聞いて、あの蛇を思わせる悪辣な表情を思い出す。

 あい、つ!!僕の情報を警察にリークしてやがる!!思わぬ裏切り者に頭に血が回り、若干痛みが和らぐ。別に同盟を組んでいるわけではないので裏切りと呼んでいいのかは分からないけど、それでもこの仕打ちは許せない。


「あン、の――……!!?」


 前知の魔女が裏切った、となれば異常、そして緊急事態だ。相手は“百年(ハンドレッド)級”の魔女。油断すればあっと言う間に全滅だ。アーニャとエランティスが危ない!急いで2人の所に向かってこの事を知らせないと――そう考え、今はこの場を振り切る為に身体強化の魔術を使おうとして……そして発動に失敗する。

 !?なんでっ?手順は間違えていない筈。だけど身体の中の魔力を上手く操れない。まるで蓋をされてしまったかのように、身体の外に出すことが出来ない。慌てる僕の様子に気付いたのか、剣持警部が退屈そうな表情に少しだけ笑いながら種明かしをする。


「あぁ、魔術、とやらを使おうとしたのか?残念だが、協力者からの寄贈でな。なんでもこの銃弾で撃たれたものの魔術を封じるらしい」

「くそ、っ、どこまで、用意周到なんだよ、“前知の”」


 く、確か封魔の魔術ってやつだ。戦闘中は常に魔法を展開している僕は今まで受けた事が無かったけど、かなり厄介な魔術の筈だ。そして何より、この状況はマズい。

 魔術は封じられた。魔法は詠唱破棄とさっきの発動で残り時間は殆ど残っていない。走って逃げるにしても、脇腹からあがる痛みという悲鳴が、それは不可能だと叫んでいる。

 クソッ、万事休すってやつじゃないか。


「抵抗するなら射殺の許可も下りている。大人しくしてくれた方が助かるんだがな」


 そう言いながら拳銃を僕に向け、その引き金にかけた指と視線を外さない剣持警部。先程の怯えた警察官に向けられたソレと同一のものとは思えない気迫を感じる。不審な動きをすれば、本当に射殺しても構わないと考えていそうだ。

 更に、僕の方も余裕があるとはとても言えない。腹部は変わらず激痛を主張し、それに加えて頭が風邪を引いたように熱を持ってきた。痛みのせいか、或いは血を流し過ぎたのか。どちらにせよ意識を保って居るので精いっぱいだ。


「それにしてもテメエ等何なんだ?あの女と言い、嬢ちゃんと言い、周りの頭でも狂わせる能力でもあんのか?」

「はっ?そんな、事、僕が、できるわけ…」


 警戒しているのか、フラつき、荒い息をする僕を睨みながらもそれ以上接近してこない。代わりに尋問にも思える質問を投げかけてくる。

 頭を狂わせる能力?……まさか前知の魔女が洗脳とか精神汚染とか、そういった類の魔術で彼等の精神を操ったのか?聞いたことは無いけど、可能性は十分有り得る……

 あぁ、くそ、そろそろ、意識を保つのか、しんどく……


「なら、何故他の奴らはまるで脅迫でもされ続けたみたいに怯えだした?

 何故俺は、こんなにもテメエを殺してやりたいと思うんだ?」


 そう言って拳銃を握る手に力が込められるのが、眩む意識の中微かに見える。

 ッ、これ、このまま、気絶したら、殺される、んじゃ……

 そう思いながらも、僕の意識は泥に沈むように落ちていった。途切れる意識の最後に聞こえたのは、倒れた僕に近付く足音だった。

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