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ホームレス魔法少女~Magic girl lost one's Home~  作者: あかむ
第五章 幸運の女神に抱かれるもの
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第四十四話

 飛翔する白い影、そう形容するしかない程素早く動く物体を、しかし僕の目は確実に追う。だけど移動地点を予測して斥力を放つも、僕の予想などお見通しと言わんばかりに、その影は進路を変更したり、牽制を放つ事でたやすく対処される。いや、実際に読まれきっているんだろう。影――アーニャは魔法を得てからの長い間、魔女として様々な障害と闘ってきた。僕と彼女とでは戦いの歴史が違う。それこそ幼子と達人の様に。

 だけど、どのような達人であろうとも、油断と意表を突かれれば敗れることもある。例えば幼子の手に拳銃が隠されていたりしたならば――


 背中から後ろを拒絶するように力を放ち、自分自身を弾き飛ばすようにして僕はアーニャとの距離を詰める。高速で迫る僕を迎え撃とうと身構えるアーニャに、僕は手に隠していた小石を斥力でを放つ。冷静に小石を払うアーニャだが、意表を突かれた彼女の意識は小石に移っており、一瞬の隙が生まれる。


「――いっけぇ!!」

「きゃぁっ!?」


 黒い霞のマントの切れ端を捻じり作り上げた槍先に力いっぱい斥力を叩き付けると、まるで砲弾の様に爆音を上げて高速で一直線にアーニャに迫る。小石に意識を向け、ほんの少しだけ反応の遅れたアーニャは避ける事は叶わないと瞬時に判断し、障壁を貼りそれを受け止める。

 障壁に突き刺さった砲弾に込められた“魔法”を開放すると、炸裂弾の様に弾け、周囲の全てを吹き飛ばす。アーニャもそれを予測していたのか、既にその炸裂の影響範囲からは離脱している。しかし、それを予測していたのは僕の方も同じこと。無理な回避で体勢を崩している彼女に、2発目、3発目と続けて同様に放つ。


「っ、っく…… 容赦、無いですね、ッ!?」


 砲撃が障壁に突き刺さり、喰い千切る様に炸裂する度に、障壁を貼るまでの時間と衝撃を回避する余裕が失われていく。そして何発目かの時、遂に障壁が間に合わなくなったアーニャの翼を抉り、その純白の羽を毟る様に炸裂し、彼女を地に堕とす。ハラハラと綺麗な白い羽が散り落ちる様は、背徳的でどこか美しさすら感じる光景だけど、それに見惚れる余裕は無い。追撃の手を緩めればすぐにアーニャは翼を再生させ、体勢を整えるだろう。――折角の勝機だ。逃すつもりはない。


「“絶弾・垂氷”」


 その言葉と共に、そしてその言葉通りに垂氷(たるひ)――漆黒の氷柱のような幾つかの槍先が出現する。その数は全部で8つ。ティアナちゃんの膨大な数には比べるのも烏滸がましい程わずかだけれど、僕に出来る全力の形成数だ。

 宙に浮かぶ氷柱は、一瞬の停滞の後、膝をつくアーニャに時間差で向かっていく。着弾する度に爆音をあげながら炸裂し、周囲を抉り飛ばす。最後の一発が炸裂した後には、辺りに巻き上がった粉塵と砂埃でアーニャの姿は視認できなくなっている。……「やったか」とは言わない。言ったらダメそうだし。

 粉塵が収まり、視認できるようになったアーニャはペタンと女の子座りをしていて、観念したかのような、だけどどこか嬉しそうな表情をしながら告げる。


「……まいりました。私の負けです」

「ぃよっしゃぁ!初めてアーニャに勝った!!」


 アーニャのギブアップ宣言を聞いた僕は、両手でガッツポーズを作り、歓喜に声をあげる。

 やった、勝てた。初めて勝てた!アーニャと出会って数か月、幾度となく繰り返した模擬戦で僕がアーニャに勝てた事など一度もなかった。ついこの間まで、かすり傷すら与えることすら困難だったけど、蠅山の魔獣を倒した後から少しずつ健闘する事も増え、遂に今日、記念すべき初勝利を手にすることが出来たんだ。


「まさかこれ程早く“術式”を組み立てることが出来るようになるなんて、思ってもみませんでした」

「まぁ、ね。でも、技名?あれ叫ぶのは、ちょっと恥ずかしいな」

「それについては我慢してください。戦闘中に一から複数の術式を形成するなんて、よっぽど器用でなければ出来ませんよ」


 漫画とかで“必殺技”の名前を叫ぶのを見たとき、どうして今から攻撃する内容をバラしたり、不意打ちを台無しにしたりするんだろうと疑問に思っていた。アーニャも“神槍”や“福音”等の必殺技(?)の名前を叫んでいるのを見た時は、ただ単純にカッコつけているのだと思っていたけど、そうでは無かったんだ。

 魔法や魔術を発動させる時、“術式”というものを組み上げる必要がある。それを組み上げていない魔法や魔術はとても単純な効果しか生み出せない。例えば“誰我接触不叶(だれもわれにふれることかなわず)”ならば、斥力を放射状に発生させるだけだ。単純な力の放出で倒せる相手なんてたかが知れている事は、今までの戦いで重々承知だ。

 だからこそ必要になるのが“術式”。法衣の形態変化や、力の操作、複製や連射等、魔法を応用するために組み込むものが術式だ。だけどこの術式、一つだけならばまだしも、複数同時は常人には不可能だ。人間は同時に別の事を考える事は出来ないのだから。

 そして、あらかじめ組み上げた複数の術式を起動させるものが、“始動キー”、つまり必殺技名や術名だ。雨のように矢を放つ、ティアナちゃん命名“絶軍・時雨”にあやかり、新技につけた名前は“絶弾・垂氷”。ねじりあげた様が氷柱のように見えたという単純な理由でつけた名前だ。因みに僕の第一案である“氷柱弾”はティアナちゃんからの「ダサい」の一言で一蹴され、始動キーとして使用できなくされた。なぜだ。


「まぁ、インフェルノなんとかとか、エターナルなんとかとか叫ばなくて済んだだけマシかな」

「たまに居ますけどね、そのような始動キーにされる方」


 ……居るんだ、そんな中二病こじらせた奴。あ、でも実際に出来るんなら中二病じゃないのかな?




◆◇◆◇◆◇




 その日の帰り道、僕は上機嫌だった。でも、仕方ないだろう?何百回と闘っても勝てなかったアーニャから、遂に勝ち取った白星。これではしゃがない方がおかしい。黄昏に染まる街を、鼻歌を歌いながら歩く僕の目の前に、不意に小柄な少女が飛び出してくる。


「うわっと、ビックリした」

「えっと、あの…… その……」


 オドオドとした、飛び出したはいいけど何と言ったらいいか分からないといった様子で少女がどもる。その隙に僕が少女を観察していると、あることに気付く。


(あれ、ゲーセンの時の?)


 そう、以前アーニャと行ったショッピングモールにあったゲームセンターに居たゴスロリちっくな少女だ。相変わらず黒いストレートの長髪と目元まで覆う前髪で、容姿の全貌が窺えない。今日の服装はモノクロ色調のリボンが多めだ。こんな服、見ている分は可愛いけど自分では絶対着れないなぁとか考えていると、少女からやっと次の言葉が紡がれる。


「こ、こんばん……わ……」

「あぁ、うん、こんばんは……」


 ……挨拶だけかよッ!?


「ぅ…… ぅう……」

「ダァーッ、もう!いつまでそうやってるつもりだ!」


 急にあがった男の声にビクリと身体を震わせていると、少女を叱りに、或いは助けに来たであろう青年が現れる。歳の位は10代後半、おそらくは高校生であろう。先生に怒られない程度に明るく染めた髪をワックスで固め、いかにも若者が好みそうな流行に乗っているであろう服で固めた、どこにでもいそうな青年。怒った表情をしているが、そこには怒りの感情よりも、少女に対する心配の割合が強そうだ。「話すときは相手の目を見る」「オドオドしない」等といった指摘をいくつも挙げた後、青年はこちらへ身体を向け、おじぎをする。


「この前はこいつを助けていただいて、ありがとうございました」


 若干蚊帳の外だった僕は、その一言で我に返る。もしかしてそれを言う為にわざわざ?そうだとしたら、ずいぶんと律儀な二人だと思う。


「いえいえ、僕は大したことは。……まさかそれだけのために?」

「いえ、こいつがどうしてもお礼を言いたいって言うんでね」

「……お礼、言い、たかった。でも貴女、ゲーセン来ない……」

「まぁそれで、街中で偶然見つけた君の前にこいつが何も考えずに飛び出したワケ」


 あー、うん。もうあのゲーセンにはいかないって決めたからなぁ。公衆の面前で下着を晒した事を思い出してしまった。今でも顔が赤くなる。どうやらこの少女はお礼を言うために何度かあのゲームセンターに足を運び、待っていたらしい。それは、悪いことしちゃったな。


「あぁ、そういえば名前も言ってなかったね。俺は布袋 辰也。んでこっちが愛緋。よろしくな」

「ん、僕は竜胆 悠。よろしく」


 

「竜胆ちゃん?ちょい、ちょい」


 布袋と名乗った青年が、手招きをして僕を呼ぶ。つまりは愛緋と紹介された少女に聞かれたく無い話題という事だ。怪訝な顔をして近づく僕の肩に彼の手が回り、身体がビクリと反応する。ティアナちゃんのトラウマのせいで男性に触れられると、一瞬固まってしまうのは仕方のないことと言え、結構恥ずかしい。内緒話をしようと顔を近づける布袋青年に、顔を避けながら彼の内緒話を聞く。そして、そのお願い事で僕は更に怪訝な表情になる。


「いやね、初対面の君にお願いするのもなんだけど、あいつの友達になってくれないかなと思ってね」

「それは、なんでまた?」

「あいつこんな性格だし、学校にも行ってないし、他人にも興味なさそうだしで、友達0なんだよね。そうなると保護者として心配になるじゃん?珍しくあいつが他人に興味を示したんだ、なんなら色々奢ってもいい。よろしく頼むよ」


 なんというか奇妙なお願いだ。まるで友人に女の子を紹介するノリで、


「……奢ってもらうのは結構です」

「あー……、まぁいきなりこんなお願いされてOK出す子はいないわな」


 断られると予想していたのであろう、やっぱりといった表情で、しかし明らかに落胆して彼は「変なお願いして悪かった」と謝罪の言葉を口にする。いや、勿体ぶった僕も悪いけど、勝手に断ったことにしないで欲しい。


「友達になれるかは分からないけど色々話してはみるよ。奢ってもらうの期待してだったら、友達だなんて言えないから」

「ッ、そっか、サンキュ」


 僕の言葉に言葉を詰まらせるほど驚き、分かりやすく喜びを表す様に僕は苦笑する。


「今日はもう遅いし、また後日でいいかな?」

「あぁ、勿論。ただ、あいつ携帯もってないから、俺のメアドかなんか交換する?」

「そうだね」


 と言ってポケットの中を探ってから気付く。そう言えば僕、携帯持ってないんだった。携帯を失ってから数か月は経過したけれど、この10年近くでしみこんだ癖は中々抜けないらしい。持っても居ない携帯を探すという恥を晒してしまい、顔を赤くしてしまう。


「あー、僕も持ってない…… 施設の番号教えるから、そっちにかけてよ」

「施設……? ……あー」


 一瞬言葉の意味を理解しかねたけど、その示すところを察したのか変な声を上げて、何と返すか迷っているように言葉に詰まる。先ほど微妙な恥を晒した僕も、なんだか気まずくて次の言葉を紡げずにいると、急に背後、いや、顔のすぐ横から声がかかる。


「あの……」

「ひやっ!?」

「うおッ、愛緋っ!だから気配を消して近づくな!ビビるわ!」


 思わず左右対称に全く同じ動きで後ずさる僕と布袋君に、少しだけ恨めしそうな顔をした愛緋ちゃんが小さく、でも確実に届く声でつぶやく。び、びっくりした。近付かれた事に完全に気付かなかった。この子アサシンか何かじゃないのか?


「二人で、仲良さそうに、話してる……」

「悪い悪い。でも、お前にも関係あることだから許してくれよ」


 そう言って頭を優しくなでる姿に、僕はあのバイト青年の姿を思い出す。


(……我ながら、引きずってるな)


 あんな荒唐無稽なお願いを引き受けたのは、あの青年がどこか似ていたからだったのかもしれない。

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