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ホームレス魔法少女~Magic girl lost one's Home~  作者: あかむ
第三章 治にして乱を忘れず、それでも今だけは……
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第二十五話

 最早マイホームと言っても過言では無い程の行きつけのネットカフェ。毎日のように通っている為、最早その利用回数は両手両足の指で数えるには役者が不足している。此処まで来ると、勝手を知ったる何とやら、何処に何があるかは目をつぶってでも分かるようになる。

 そんなネットカフェの一角で、僕は一糸纏わぬ姿になっている。自らの身体を確認してみると、以前痩せ過ぎと言った身体は、バイト先の店長の賄いで程よく肉付き、肌の瑞々しさや髪の艶が戻ってきている――気がする。多分。とは言えこのままだと少しメタボ……いや、お腹周りが気になってしまいそうだ。


(つい、男の時の胃袋を基準に注文しちゃうんだよなぁ)


 まだ抓める程も無いけれど、ひと月前と比べて少し膨らんだ気がするお腹をさすりながら、僕は考える。残すのは勿体ないし、食材に失礼だからと、少し無理して完食を目指してしまうのが主な原因だろう。

 

「……って寒ッ」


 夏場とは言え、水場で全裸で立っていたせいで完全に冷え切った身体を温める為、急いで更衣室からネットカフェ備え付けのユニットシャワーの中に入り、少し熱めに調整したシャワーを首から浴びる。一瞬熱すぎたかなと思ったけれど、しばらく浴びていると身体が熱さに慣れたのか丁度いい温度に感じる。首から手、お腹、背中、脚と順にシャワーで流しながら、今日の出来事について考える。


(遥……。墓参り、してくれてたんだな)


 竜胆(りんどう) (はるか)。僕の妹。

 生前は仲が特別良いとも、悪いとも無く、普通の兄妹であったと思う。成績やスポーツも平均より出来る程度の僕と比べて、高校時代は校内でもトップの成績で、今では都内の超名門大学に通う頭脳、全国大会に出場するほどのテニス選手と言う文武両道の完璧超人な遥に、いつも幾許かの劣等感は感じていた。だけど、僕は僕なりに妹を可愛がり、主観的に見れば遥も遥なりに僕の事を慕ってくれていたと思う。


(泣いて、くれたのか)


 嬉しく思う。だけど、それと同時に悲しく、申し訳なく思う。僕の短慮な行動のせいで、確実に悲しみ、涙を流す人が居る事を。僕の行動により小さな少女の命を救えた。だが、代わりに僕の周りの大切な人達が涙を流すことになった。



(僕は……どうすれば良かったんだろうな)


 本当にこれで良かったのだろうか。僕はあの子を見捨てるべきだったのではないか。

 最低な後悔と分かっていても、その思いは心の何処かに“しこり”の様に残った。



――後悔先立たず。其れは後から付いてくる。追ってくる。

――だが、それは“してはいけない事だった”

――竜胆 悠は気付かない。自らに起きた変化を。

――それが致命的な変化だとしても。



「あぁ、悠さん、それは“(まず)い”。それだけは駄目ですよ」



――誰かが何処かで呟いた。




◆◇◆◇◆◇





シャワーからあがった僕は、数冊のコミック本を手に持ちながら、自分のスペースに戻ろうと歩いている。すると、後ろから不意に声を掛けられた。


「そこの君」

「へ、僕?」


 振り向いた先に居たのは眼鏡を掛けた、理知的な顔つきをした誠実そうな20代半ば辺りだろう青年。ピシッと決めたスーツは中々の値段のものだろうか、僕から見ても分かるくらい高級感が漂っている。一瞬ナンパかと思ったが、どう見てもナンパをするような人間では無さそうだし、そもそもそんな雰囲気ではない。


「そうです。こんな時間までこんなところに居ちゃダメじゃないですか。もう22時になります。早く帰って下さい」


 あぁ、そっちか。このパターンは予想外だ。

 言われてみれば確かに当然だ。壁にかけられた時計を確認すると、現在時刻は夜10時の5分前。未成年は補導をされてもおかしくない時間だ。外見ではどう見ても中学生程度の僕が、ネットカフェでウロウロしていれば、不審に思うのは仕方ない。かと言って帰る家の無い僕が、『はい、そうですか』とここを出る訳にはいかない。と言うかカツカツの生活の中で、既にナイトパックの値段を払ってるので、途中退室だなんてそんな勿体ない事は出来ない。


「あー、いえ、ちょーっと訳有りで家に帰る事が出来なくって」

「……まさか、家出ですか?」

「……まー、似た様なものというか」

「ちょっと来て下さい」

「え、ちょ、おい、な、何するんだよ!何処に連れてくつもりだ!警察呼ぶぞ!」


 その青年に手を掴まれて軽く引かれる。突然の展開に動揺して少し大きな声を出してしまう。青年はため息をついた後、スーツの内側の胸ポケットを弄る。その段階になってようやく嫌な予感が頭をよぎる。もっとも既に予感と言うよりは確信に近く、そうで無ければと望んでいるに過ぎないが。深夜徘徊に対する注意、それを拒んだ時に出すもの……


「あまり店中で騒ぎたくなかったのですが…… 世田警察署の朝日です。任意同行、していただけますね?」


 濃いチョコレート色の手帳を取り出し、二つ折りの其れを開く。上半分には顔写真、下半分には金色の記章に「POLICE」の文字。紛れもない――と言っても実物を見た事は無いけど、警察手帳を見た僕の顔色が蒼白に変わる。



 ……終わった。


 

 連れていかれた先は付近でも一番大きな警察署、世田警察署だ。外観は白い吹付けタイルと言うシンプルなものだが、その巨大さと警察の建物と言う先入観でどことなく荘厳に見える。その建物の一室、大部屋をパーテーションで区切った中に机といすを並べたスペースに僕と、朝日と名乗った警察官が向い合せで座っている。


「さて、じゃあまずは、もう一度名前から教えてもらえますか?」

「竜胆…… 悠です」

「悠は、どの漢字ですか?」

「あ、下が心で…… あぁ、それです」


 そこで事情聴取、と言うには少し大げさかもしれないけど、僕は警察官の青年に聴取を受けていた。


「歳は?見たところ中学生位ですか」

「ええと、どうでしょう。多分15歳位です」

「多分?」

「いえ、15歳です」


 危うく曖昧な返事をしてしまった。本当に15歳なのかは分からないけど、どうせ身元も分からない身なので見た目の年齢で通すことにする。


「ご両親の連絡先は?」


 唐突に本命の質問が来る。その質問を聞いて身体がビクリと震える。

 良くお前は嘘が下手だって言われていたけれど、この反応も原因の一つだと思う。分かってはいるものの、反射的な事なので中々直せない。


「……ありません」

「ありません?」

「……居ないです。両親」


 確実に来るであろう答える事の出来ない質問。連行中も何度も、そしていくつも回答を考えてみてはいたものの、これ以上の回答は見つからなかった。それを聞いた警察官の青年はため息をついた後に少し呆れたようにして言う。


「家出してしまって、それを怒られるのが怖いのはわかります。でも、だからと言って、それを隠しても何もならない。それにいつかはバレる事です。その時は今バレる以上に怒られるんですよ」


 僕が親に連絡されるのを畏れて嘘を付いているのだと思っているのだ。確かに客観的に見れば今の僕はその連絡を畏れる少女にしか見えないだろう。僕だって同じ状況ならそう思うと、はっきりと確信できる。だが、今日一日でかなり精神的にズタボロになってしまった僕に、その態度は致命傷を与えた。


「……本当ですよ」

「え?」


 あぁ、もう、こう為ればヤケクソだ。どうせ僕は身寄りも、戸籍もない人間だ。失うものなんて何もないじゃないか。


「居ないんですよ。両親も、親戚も、保護者って呼ばれる人が」

「それ、は……本当ですか?」


 僕の表情と声色を見て、其れが只の親にばれる事を畏れた少女の、苦し紛れの言い訳では無いと言う可能性が浮かび上がったらしく、恐る恐る言葉を選んで放つ警官。対して僕は、何も考えず、言葉も選ぶどころか浮かぶものを片っ端からありったけ放つ。


「ハッ、疑ってますか?それなら好きなだけ調べれば良いですよ。身寄りも、それどころか、戸籍すら無いはずだから!」

「戸籍もですって?ちょっと待って下さい、君は一体……」

「僕だって分からないよ!ねぇ、教えてくれよ!僕は、一体、“何”なんだよ!」


溢れ出る感情のまま、声を張り上げる。残業か、或いは夜勤であろう、広い空間に疎らに居る警察官達が、何事かと此方を注目するも、それを気にする余裕は僕には無い。


「訳が分からない、意味が分からない。荒唐無稽すぎて気が狂いそうだ。こんな出来事、漫画やゲームの中だけで十分だよ……

 なぁ、僕が何をしたって言うんだよ…… ひっく、何か、っく、悪い事、したのか?僕は、僕は……」


 ……そこから先はあまり覚えていない。流れる涙も、嗚咽も気にせずに泣き喚いた後、どうやら何処か休める部屋に連れて行かれたのだろう。その部屋のベットで横になっていた。





「はぁ、何で泣いてしまったんだろ……恥ずい……」


 僕以外誰も居ない小さな部屋。四畳半位のスペースに、ビニルタイル張り床、逃走防止用であろう、格子の着いた小さな窓。置かれているのはベットとゴミ箱だけと言う殺風景な部屋。もしかしたらいわゆる留置所か何かなのだろうか。いやに殺風景な部屋は精神的に参りそうだ。そして公衆の面前で泣き喚いてしまったと言う自己嫌悪からさらに僕の精神は削られていく。ただ、泣き喚いたおかげでスッキリしたのか、先ほどまでと比べるとかなり心の中がすっきりしたように感じる。


「あー、僕どうなるんだろうな……」


 これが普通の家出や深夜徘徊での補導であれば、保護者に連絡が入り、迎えに来てもらって終わりだ。まぁその後こってりしっぽり怒られるだろうけど、事件としてはそこで一応の解決となる。だけど、僕の場合はその迎えに来てくれる保護者が居ない。警察の人たちがどれだけ調べても出てくるはずが無い。居ないものは居ないのだ。そうなると、どうなるのだろう?詳しくはないけれど、何処かの児童養護施設に入れられるのだろうか。


(あれ、待てよ。それってヤバいんじゃないか?)


 そこまで考えて、ふと自分の置かれている状況を思い出す。確かにただ単に、僕が女の子の姿になった事により、身寄りも戸籍も無くなったのだとしたら、大人しく児童養護施設に入るのが筋だろう。だけど、今の僕にはやらなきゃならない事がある。


異界至無窮門(いかいへといたるむきゅうのもん)”からたまに現れる魔獣を倒すこと。


 界渡りの魔女に“異界至無窮門(いかいへといたるむきゅうのもん)”を閉じさせること。


 そして、ティアナさんを殺したと言う“魔女”を倒すこと。


 そのどちらも、僕が魔法をもっと上手く扱えるようにならなければ、到底かなえる事ができない。界渡りの魔女については、話が分かる相手なら戦わなくても済むかもしれないけど、断られるようなら戦いは避けられない。もう一つについては戦闘は不可避だ。まさか、「今から貴女を叩きのめします」と言う相手に寛容な人間が居るとは思えない。養護施設に入った状態で、今までのように修行が出来るのだろうか?あぁいった施設には門限があるらしいし、自由に使える時間は限られている。門が現れる時に都合よく抜け出し続けれるとは思えない。


「逃げようか……」


そうと決まれば、行動は早い方が良い。夜なら人も少ないだろうし、外に出さえすれば、暗闇に紛れるのは容易だ。

そう考えた僕が部屋の外を確認しようと忍び足でドアに近付き、ドアノブに手を掛けた瞬間、自動的にドアノブが回転した。


「ひぇッ!?」


一人でに扉が開き、顔を出したのは朝日警察官と、警察官と言うより寧ろヤの着く自営業の様な強面と、見憶えのある恐ろしげな眼光を持つ中年の男性…… 昼にバイト先で会ったあの警察官が立っていた。


「あれ、もう起きたんですか?何でそんな体制で固まってるんですか?」

「あぁ、嬢ちゃん。また会ったな」


な、な、何であの時の怖いおじさんが此処に!?

ドアノブを握ろうとしている体勢のまま、固まった僕を訝しげに見る二人を前に、僕の頭が混乱から復帰して再起動する迄、数分の時間を要した。


やっぱりこの警部さん怖い。


非常に遅れて申し訳ないです。

月三回ペースは維持出来るように頑張りたい……

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