↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホームレス魔法少女~Magic girl lost one's Home~  作者: あかむ
第二章 其れを腹心の友と為します
17/87

第十七話

うーん、難産。説明回は苦手。

 荘厳な鐘の音が鳴り響き、穏やかな微睡の中から覚醒される。


「ここ、は……」


 お尻と背中に感じるのは冷たい木の椅子の感触、見渡すと見事なステンドグラスや細い柱に刻まれた装飾、そしてアーチ状の天井は見事な装飾だ。建築にはあまり詳しく無いが、中世辺りの有名な教会の様な造りだ。

 恐らくここは夢の中。以前、僕が初めてエランティスに出会い、魔法を使った後に見た夢、その夢の中で見た礼拝堂。それが今再び僕の目の前に広がっていた。ただ、前回と違うのは、不気味なまでの無音の世界では無く、今では鐘の音の余韻が心地よく響く穏やかな静寂の世界だった。そして、以前はまるで声を出す機能が無くなってしまっていた喉は、今度は正常に僕の声を響かせていた。


「お久しぶりですね、お兄さん」


 声を掛けられて振り向くと、亜麻色の髪の6歳くらいの少女が立っていた。彼女も前回、この教会の夢で出てきた少女だ……。

 少女はからかう様な口調で続ける。


「今日も迷子、ですか?」

「そう、なのかな?でも今回は目的があって来たんだ。

 ……君が、ティアナちゃんだよね?」


 じっと少女を見据え、その表情を窺う。

 あぁ、何故前は気付かなかったんだろう。目の前にいる少女、その髪の色は亜麻色で“女の子の状態の”僕の髪の色である栗色よりも随分と明るいし、見た目の年齢も半分以下だ。だけど、その顔立ちは紛れもない同一人物。僕の姿をそのまま若返らせた姿に他ならなかった。


「……ばれました?」

「まぁ、同じ顔だし、ね」

「アハハ、ちょっと恥ずかしいですね。自分の顔で他の人が行動しているっていうのは」


 特に驚く素振りも見せず、悪戯が成功した子供の様な表情で少女―――ティアナちゃんは答える。


「ここは、どこなの?夢の中?」

「半分正解で半分ハズレ。ここは“魔法”の中です」


 そう言ってティアナちゃんは大きく手を開き、踊るようにクルクルと回る。


「悠さんは今眠っています。夢を見ている時や死んだばかりの精神は“境界”を越え易くなるんです。異世界、異次元……そういった異界へ移ろいやすい状態になります。まぁ異界へ渡るにはそれなりに厳しい条件があるので、寝たり死んだりしても簡単にはいくことは出来ないんですけどね。でも、今回条件が揃ったのでわたしが此処に―――“誰我接触不叶(だれもわれにふれることかなわず)”と言う異世界の中に呼んだって訳です」

「“誰我接触不叶(だれもわれにふれることかなわず)”という異世界……?魔法はこう……超常現象みたいなものじゃないの?」


 僕がそう尋ねるとクルクルとみてるだけで目をまわしてしまいそうなステップを止め、ティアナちゃんがこちらを向く。


「魔法の説明はエランちゃんから聞きましたよね?世界の理を歪める法。邪神の理。そんな大業なものに何のリスクも無い筈が無かったんですよ。魔法の代償がこの異世界です。

 魔法は世界の理を自らの望みに則した形で歪める事で、それを行使します。魔法の展開を止めればその歪みは止まり、すぐに“世界”によって元の理に修正されます。わたし達魔女が生きている間はさほど問題があるものでは無いんですよ。

 問題は死んだとき、その死骸。魔女が死ねば魔法はその制御を失って暴走します。死体を起点にして際限なく広がり、世界の根本とも呼べる部分を歪ませる。その行き着く先は……何が起こるか分かりません。世界の崩壊か、それとも書き換えられた世界への改編か……どちらにせよ碌でもない事になるのは避けられないでしょうね。世界はそれを防ぐために、魔法ごと歪みを切り取って、その魔女の魂を楔にして小さな異世界にして封じ込めます。そうする事で、魔法の広がりはその小さな異世界で完結して、その魔法に則した法則を持った世界、つまりここの様な空間になるんです。

 まぁ悪い言い方をすれば、魔女死んだあと魂が小さな異世界に永遠に囚われて魔法が暴走しないように管理させられるって事ですね。多分生きてる魔女は誰も知らないと思います」


 こんなところに、ずっと一人で……?それは……


「別に辛くはないですよ?辛いとか寂しいとかそういった概念自体が存在しませんし、元々わたし達が歪めちゃった法です。責任もって管理するのは当たり前です」


 僕の苦虫をかみつぶしたような表情を見て、ティアナちゃんはフォローするようにそう言って、少し笑った。その表情や声色には確かに何ともなさそうに取り繕われていたけど、僕にはどことなく寂しげに見えた。


「それにこの異界に限れば私は神様です。偉いんですよ。えへん」


 ……ドヤ顔ってこういう顔の事を言うのか。シリアスな空気を蹴り飛ばすような発言に、思わずジト目で見やる。


「……」

「……ノーリアクションですか。恥ずかしいじゃないですか」

「こうしてみると普通の女の子にしか見えないんだけどなぁ」

「しかもスルーですか?わたし泣いても良いよね?泣いちゃいますよ?」


 ため息をついてぼやくと、スルーが堪えたのか微妙に涙目でオーバーなリアクションを取る。


「なぁ、エランティスが言ってた、2度の魔法って、君がやったのか?」

「……そうですよ」


 「もういいです」と呟きながら俯きながら涙目で肯定する少女。うーん、ちょっとからかい過ぎたかな?罪悪感が……


「ありがとう。おかげで助かったよ」

「礼には及びません。わたしも目的がありましたから」


 ……目的?


「お願いがあります。竜胆悠さん」


 そう言って佇まいを直してこちらを見据えた少女の姿は、とても6歳程度とは思えない姿だった。背筋が伸び、大人びた表情と声色になる。声自体は同じ筈なのに、表情と声の抑揚でこれだけ印象が変わるのかと驚いてしまう。


「わたしはエランちゃんとアーニャ、あの二人がしようとしてる事を止めたい」


 エランティスとアーニャさんの目的……異界の門を開いた魔女を止める事と、ティアナちゃんを殺したと言う魔女への復讐の二つだ。


「異界の門を、“異界至無窮門(いかいへといたるむきゅうのもん)”を閉じる……界渡りの魔女の魔法を止めるのは必要な事です。それを二人が引き継いでくれるのは、正直嬉しい」



「でも彼女と、九尾の魔女と戦ってはダメ。あれは普通の魔女じゃない。わたし達程度の普通の魔女じゃ勝てない。

 幸い九尾の魔女自身、殺戮を楽しむような性格や非道を好んで働いたりはしてないので、こちらから彼女に仕掛けなければ殺されたりすることもありません。それでも襲ってくる相手に慈悲を掛ける様な事はしないはずです。

 二人とも大切な友達です、親友なんです。だから二人が無残に殺される結末なんて見たくない。

 だからお願いします、悠さん。二人の復讐を止めてください。身勝手なお願いですが、よろしくお願いします」


 そう言って深々と頭を下げる少女。全く、エランティスとは大違いだ。


「エランティスと約束したんだ。異界への門を止める、ティアナちゃんの仇を討つ……一度した約束は破らない。それが僕のモットーだ」

「それでもっ……!」


 僕が断ると思ったティアナちゃんがそれでもと頼み込もうとするのを手で抑えて、僕は答える。


「だから、説得する。ティアナちゃんはそんな事望んでないって分からせて、二人を諦めさせる。だから、ここでもう少し待っていて」


「ありがとう……ございます……」


 泣きそうな顔で微笑むティアナちゃんの姿を見た瞬間、景色がグラリと揺れる。いや、景色が揺れたんじゃない。僕の意識が、視界がまるで鈍器で殴られたかのように揺れたんだ。


「時間切れのようですね……」


 そう言って寂しそうに呟くティアナちゃん。そういえば前回も同じような眩暈によって目を覚ましたんだった。 


「悠さん、今までの2回の様に、わたしが手伝えるのは全部で5回。残りは使ったからあと3回です。

 致命傷に至る攻撃の時はわたしが勝手に発動させますけど、それ以外は悠さんの意思で、悠さんの願うとおりの形で使ってください。一応どんな形でも悠さんの思い通りに使いこなしてみせます。自慢ではないですが、わたし魔法の使い方が上手かったんですよ?

 ここでの記憶は悠さんには残りません。死んだ人が来世に記憶を持ちこせないように、境界を超えた時に記憶は消されてしまいます。だけど、同じ魔法で繋がっている悠さんとわたしなら、きっかけがあれば思い出すことが出来る。その為の布石は打ちました」


「だから、二人を、よろしくお願いします」


 眩む意識を何とか振り絞り、力強くサムズアップをティアナちゃんに向け、不敵に笑ってみせる。それを見たティアナちゃんは一瞬の驚愕の後、ニッコリと笑い、同じくサムズアップを返してくれた。

 この孤独の世界で一人友達を思う少女の為、絶対にこの記憶を失いたくないと願いつつ、意識は完全に闇の中へ落ちて行った。








 目が覚めるとおでこの上に手を乗せるエランティスの姿が見える。そしておでこからヒリヒリとするような痛みを感じる。以上の二点から導き出される答え……それは、僕は今、エランティスの肉球チョップによって叩き起こされたという事だ。


「起きろ、竜胆悠」

「……おはよう、エランティス。随分な挨拶じゃないか」


 羽虫を払うようにぞんざいに手を振り、払ってみようとするも、その手をヒラリと跳びかわしてエランティスが目の前のパソコンのキーボードにガシャンと着地する。おいおい、壊すなよ……弁償するお金なんてないぞ。



「随分な挨拶はこちらのセリフだ。貴様よもやこの時間になったら起こせと言ったのを忘れたわけではあるまいな……?」


 そう言ってこちらを睨むエランティス……もといエランティスさん。あー、うん、そう言えば頼んだ気がするというか頼みました。ごめんなさい。


「お、おお、覚えてるさ。でも起こし方ってものが……」


「おい、うるせぇぞ!」

―――ドンッ!!


「ぴゃっ!?」


 急な打撃音と怒鳴り声にビクリと躰を竦ませる。吃驚して変な声が出た。そういえばここはネットカフェだ。夜が明けたとはいえ隣ではまだ寝ているお客さんも居たかもしれない中で、エランティスとぺちゃくちゃ話して居たら怒られても仕方がない。そう思っていると40歳位の明らかに堅気ではない剃り込みの入った男性がブース越しにこちらを睨む。


「嬢ちゃん、電話なら外でやれ」

「ご、ごめんなさい!!」


 相手が中学生くらいの少女だと思ったのか、若干声を柔らかくしてヤの付く自営業のおじさんが注意する。―――とはいえ一般人の僕にとっては恐ろしい声色でだったが。

 エランティスは彼には見えてない様で、ペット持ち込みで怒られることは無かったけど、鼻で笑うエランティスにイラッとした。

感想、評価待ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。