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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード8
91/94

最終決戦

空が、裂ける。


 世界中で。


 無数の次元の裂け目が同時に開き、黒い怪異たちが雪崩れ込んできた。


 その数は、一度目を知る者がいれば絶望したであろう規模だった。


 だが――。


『第一波、接敵!』


『予定どおりです!』


『各部隊、作戦Cへ移行!』


 通信に混じる声は、不思議なほど落ち着いていた。


 誰も慌てていない。


 誰も取り乱していない。


 すべてが、準備してきたとおりに進んでいた。



「ユズ!」


「うん!」


 二人は同時に駆ける。


 ギンの剣が怪異の腕を断ち切り、その隙へユズの一閃が走る。


 黒い霧が風へ溶けていく。


「右!」


「任せて!」


 言葉は短い。


 それだけで十分だった。


 互いの動きは、もう考えるまでもなく噛み合っている。


 ギンは思わず笑う。


「なんか今日、やりやすいな!」


「私も!」


 ユズも笑い返す。


「ちゃんと周りが見えてる!」


 その声を聞きながら、後方の隊員たちも次々と前へ出る。


「今だ!」


「押し返せ!」


 戦線は崩れない。


 誰一人、倒れない。



『ギン!』


 無線からエースの声が飛び込む。


『そっち聞こえるか!』


「聞こえてる!」


『東側片付いた!』


『これからそっちへ回る!』


 その声に、ギンは自然と笑みを浮かべた。


「ああ! 待ってる!」


 通信が切れる。


 それだけのやり取りだった。


 それだけで十分だった。


 エースは、生きている。



「神奈川方面、加護を追加します。」


 ダージリンは無数の術式が描かれた大型モニターを見つめる。


「第三班へ、防御結界。」


「第四班へ治癒支援。」


「……間に合う。」


 補佐官が驚いたように顔を上げる。


「すべて予定どおりですね……。」


「ええ。」


 ダージリンは静かに頷いた。


「最高司令のおかげです。」



「解析終了!」


 ココアの指がキーボードを駆ける。


「敵増援、あと四十秒!」


「みんな、そのまま耐えて!」


 通信の向こうから返事が返る。


『了解!』


『四十秒なら持つ!』


 ココアは画面を見つめたまま、小さく息を吐く。


「……すごい。」


 自分たちが解析する前に。


 最高司令は、もう答えを知っていた。



 世界政府本部。


 中央作戦指揮所。


 巨大な世界地図には、無数の光点が映し出されている。


 そのどれ一つとして、消えていない。


「西ヨーロッパ戦線、優勢!」


「北米支部、制圧率七十五パーセント!」


「南極方面、敵部隊後退!」


 報告が次々と上がる。


 指揮所には、これまでにない熱気が満ちていた。


 青年は静かにモニターを見つめている。


「最高司令。」


 参謀が声を掛ける。


「敵主力、予測どおりです。」


「……はい。」


 青年は頷いた。


「予定時刻まで、あと九分。」


 その一言だけで、参謀たちは理解する。


 ここからが本番だ。



 戦場では、名もない隊員たちも戦っていた。


「後退するな!」


「援護入る!」


「大丈夫か!」


「平気だ!」


 倒れそうになった仲間へ、すぐ別の隊員が肩を貸す。


 傷ついた者には治療班が駆け寄る。


 誰かが孤立する前に、必ず誰かが支える。


 一人で戦う者は、誰もいなかった。



 青年は静かに時計を見る。


 予定より三十七秒早い。


 誤差の範囲だ。


 やがて。


 敵の動きが、わずかに鈍る。


 モニターに映る怪異たちの進軍速度が落ち始める。


 青年は誰にも聞こえないほど小さく呟いた。


「……来た。」


 待ち続けた瞬間。


 何度も夢に見た瞬間。


 一度目には、誰も止められなかった時間。


 今度は違う。


 青年は指揮卓へ手を置く。


 その瞳だけが、静かに鋭さを増していく。


「全戦線へ通達。」


 指揮所の空気が張り詰める。


「最終段階へ移行します。」


 その一言を合図に。


 世界政府は、決着をつけるための最後の一手へと動き始めた。

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