↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード8
90/94

アベンジ

円卓が告げた「決着の時」は、静かに近付いていた。


 世界政府本部。


 中央作戦指揮所には、昼夜を問わず通信が飛び交い、大型モニターには世界中の裂け目観測情報が映し出されている。


 職員たちは休む間もなく走り続けていた。


「東第三防衛線を一キロ後退。」


 指揮卓の前で、一人の青年が淡々と言う。


「ですが最高司令。」


 参謀の一人が首を傾げる。


「敵の進行予測は西側です。」


「変わる。」


 短い返答。


「三分後に。」


 参謀は戸惑いながらも命令を書き換える。


「……了解。」


 数分後。


 通信士が声を張り上げた。


「敵部隊、進路変更!」


「東第三防衛線へ向かっています!」


 指揮所がざわめく。


 青年は、何事もなかったかのように次の資料へ目を落とした。


「北部支部。」


「はい。」


「増援を一個中隊減らしてください。」


「理由を伺っても?」


「必要ありません。」


 短い沈黙。


「代わりに神奈川へ。」


「……承知しました。」


 誰も理由を聞かなくなっていた。


 これまで何度も。


 青年の判断は、すべて正しかった。



 少し離れた場所で、その様子を室長は静かに見つめていた。


 迷いがない。


 考えているというより。


 思い出している。


 そんな指揮だった。


「……最高司令。」


 青年が振り向く。


「何でしょう。」


 室長は少しだけ笑う。


「失礼なことを申し上げます。」


「構いません。」


「あなたは。」


 一拍置く。


「まるで、この戦を経験したことがある方のようですな。」


 青年は何も答えない。


 ほんのわずかに。


 その視線だけが揺れた。


「……慎重なだけです。」


 静かな返事。


 室長は小さく頷いた。


「そういうことにしておきましょう。」


 それ以上は聞かない。


 聞くべきではないと、本能が告げていた。


 理由など、もうどうでもいい。


 目の前の青年が、人類を勝たせようとしている。


 それだけは疑いようがなかった。



 指揮所の空気は、これまでとは違っていた。


 誰も諦めていない。


 誰も死を覚悟していない。


 勝つための準備だけが、着々と積み重ねられていく。


「装備点検、完了!」


「転移門、全基稼働確認!」


「各支部との同期、異常なし!」


 次々と報告が上がる。


 その中で、一人の若い隊員が装備を握り締め、小さく呟いた。


「……今度こそ。」


 誰に向けた言葉でもない。


「今度こそ、全員で帰る。」


 青年はその声を聞いていた。


 しかし振り返らない。


 ただ静かに、新しい命令書へ判を押す。


 その一枚一枚が。


 誰かの未来を書き換えていく。


 やがて。


 司令室中央の大型時計が、静かに予定刻限を示した。


 円卓が宣言した時刻。


 決戦は、もう目の前まで迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。