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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード1
8/94

第8話 世界政府



 裂け目の先に広がっていたのは、別世界だった。


 天然の岩肌がむき出しになった天井。


 その隙間を縫うように埋め込まれた白い照明。


 壁際には見たこともない機械が整然と並び、太い配管が地の底へ向かって何本も伸びている。


 洞窟だったはずの場所が、そのまま巨大な施設へと造り替えられていた。


 無機質な機械音が、静かに反響する。


 人がいる。


 作業着姿の職員。


 事務服を着た女性。


 書類を抱えて足早に歩く者。


 誰もが忙しそうに動いている。


 なのに。


 誰ひとりとして、ギンを見て驚かなかった。


 まるで、迷い込んだ子どもなど珍しくもないとでも言うように。


 壁に埋め込まれた大型モニターへ視線が吸い寄せられる。


> E-114:東北エリア/観測継続

> C-002:関東エリア/収容完了


 意味は分からない。


 けれど、それがただの数字ではないことだけは分かった。


 この場所には、自分の知らない何かがある。


 ギンは息をのむ。


 圧倒される。


 知らない世界が、目の前に広がっている。


 ――なのに。


 胸の奥では、別の痛みが脈打ち続けていた。


 さっきまで、父と母は生きていた。


 二人は笑っていた。


 半分このパンを囲んで。


 それが、ほんの数分前の出来事だったなんて信じられない。


 驚いている自分が、許せなかった。


 こんな場所に目を奪われている場合じゃない。


 悲しむ暇も。


 怒る暇も。


 現実が、それすら奪っていく。


「……ここ、どこだよ。」


 思っていた以上に、声はかすれていた。


 ユズは振り返ることもなく歩き続ける。


「説明はあとって言ったでしょ。」


 少しだけ間を置いて、静かに続けた。


「――世界政府、神奈川支部。」


「世界、政府……?」


 聞いたことのない名前だった。


 国でもない。


 自治組織でもない。


 けれど、この施設の異様さを見れば、それが冗談ではないことくらいは分かる。


 ユズはそれ以上何も言わず、迷いのない足取りで廊下の奥へ進んでいく。


 ギンは、その背中を見つめながら拳を握り締めた。


 まだ終わっていない。


 終われるはずがない。


 何一つ、受け入れられていないのだから。


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