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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード7
79/94

天空を裂く戦火

その日、空は裂けた。


――比喩ではない。


世界各地の空。

大地の奥深く。

海底よりさらに下。


あらゆる場所で、同時に空間そのものが引き裂かれた。


それは自然現象ではなかった。

災害でもなかった。


意思を持った侵攻だった。


円卓が告げた「然るべき時」が、ついに訪れたのだ。


世界中に出現した無数の裂け目から、異なる世界の存在が流れ込んでくる。


未知の神性。

異形の生命体。

人類がこれまで記録したどの怪異にも分類できない存在。


それらはただ一つの目的のために進軍していた。


――この世界を終わらせるために。


世界政府本部。


地底深くに築かれた中央作戦指揮所では、無数の警報音が鳴り響いていた。


「東アジア方面、敵性反応さらに増加!」


「太平洋防衛ライン、突破されます!」


「欧州支部より救援要請! 既存戦力では抑えきれません!」


巨大なメインスクリーンには、世界各地の戦況が映し出されていた。


赤く染まっていく戦域。


消えていく防衛ライン。


増え続ける敵戦力の数値。


報告される数字の一つ一つが、これまで積み重ねてきた常識を容易く踏み越えていた。


室長は、指揮台の前に立ったまま、それらを睨み続けていた。


「……」


声には出さない。


出せば、わずかに揺らいでしまいそうだった。


これまで世界政府は、幾度となく人類の存亡を懸けた戦いを経験してきた。


怪異災害。


神々との衝突。


世界規模の事件。


その度に、犠牲を払いながらも乗り越えてきた。


だが。


これは、違う。


規模が違う。


相手が違う。


そして何より――。


「……敵が、こちらの弱点を全て理解している」


誰にも聞こえないほど小さな声で、室長は呟いた。


円卓に属していた神々。


世界政府が長年頼ってきた強大な力。


結界。

予知。

神秘による防衛機構。


それらは今、全て敵側にある。


味方だったものが、最も恐ろしい敵になっていた。


「――独立系神格からの支援状況は?」


室長の問いに、オペレーターが即座に答える。


「毘沙門天を含む複数の神格から支援を確認しています!」


「戦力比は?」


一瞬の沈黙。


「……」


「報告を」


「……現在確認できる範囲で、敵戦力は我々の想定の三倍以上です」


指揮所の空気が凍る。


だが、誰も声を上げなかった。


そんな余裕すらなかった。


「円卓側の神格数を考慮すると……」


オペレーターは一度息を飲む。


「長期戦になった場合、勝率は……」


「言う必要はない」


室長が遮った。


その数字を聞く必要などなかった。


ここにいる全員が、もう理解している。


足りない。


戦力も。

時間も。

奇跡すらも。


それでも。


彼らはここに立っている。


室長は、メインスクリーンの片隅に映し出された映像へ視線を移した。


そこには神奈川支部の前線が映っていた。


崩れかけた街。


飛び交う攻撃。


必死に戦う職員たち。


その中に、一つの見慣れた姿があった。


巫女装束の上からAAAを装着し、前線で指揮を執る少女。


「……ユズ」


無意識に、その名前が口から漏れる。


一瞬だけ。


指揮官ではなく、一人の父親として。


その声を聞いた周囲の職員たちは、誰も反応しなかった。


責める者などいない。


この場にいる全員が、同じものを背負っている。


大切な誰かを、戦場へ送り出している。


帰ってくる保証などない場所へ。


「室長」


呼びかけに、室長は顔を上げた。


「最終防衛計画の判断をお願いします」


指揮所の全員が、彼を見る。


世界政府最後の防衛線。


それを発動すれば、残された戦力の大半を失う。


だが。


使わなければ、もっと早く全てが終わる。


室長は、静かに目を閉じた。


そして。


「……全支部へ通達」


ゆっくりと口を開く。


「最終防衛計画、発動する」


声は震えていた。


だが、それでも揺らがなかった。


「目的は勝利ではない」


指揮所の空気が張り詰める。


「一人でも多く、生きて帰還させろ」


それが、今の彼らに残された唯一の使命だった。


「……それだけを、願う」


呟きは、無数の警報音にかき消される。


誰の耳にも届かなかった。


それでも。


そこにいた全員が、同じ願いを抱いていた。


世界政府史上、最大規模の戦い。


人類と、異なる世界の全てを巻き込んだ戦争。


その開幕を告げるように。


裂けた空から、無数の敵が降り注いだ。

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