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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード6
73/94

世界各地で

神奈川支部で起きていた惨劇は。


世界で起きていた災厄の、ほんの一場面に過ぎなかった。


アフリカ支部。


「応援部隊が到着します!」


その報告に、誰もが安堵した。


疲弊しきった現場へようやく援軍が来る。


そう思った、その瞬間だった。


到着した部隊は、何のためらいもなく銃口を向けた。


乾いた銃声が響く。


迎えに出た警備班五名は、反応する暇もなく倒れた。


「……なんでだ」


叫びにもならない声が漏れる。


誰が敵なのか。


誰が味方なのか。


それすら分からないまま、戦いだけが続いていく。


関西支部。


「後方は任せろ!」


長年現場を支えてきたベテラン職員がそう言った。


誰も疑わなかった。


疑う理由などなかった。


次の瞬間。


その銃口は、仲間へ向けられた。


「……っ!」


悲鳴。


怒号。


混乱。


隊列は一瞬で崩壊し、部隊は半数近い戦力を失う。


海外某支部。


かつてベヒモス事件の舞台となったその土地では、封印監視部隊が孤立していた。


怪異。


なりすまし。


そして本物の職員。


三つ巴の混戦。


誰かを助けようと駆け寄った先で、銃口を向けられる。


そんな悪夢が現実になっていた。


それだけではない。


世界中の支部で。


世界中の現場で。


同じ光景が繰り返されていた。


「逃げろ!」


「違う! そいつは!」


「撃つな!」


「本物だ!」


怒号。


悲鳴。


無線に混じるノイズ。


誰かの最後の叫び。


それらは一つの戦場ではなく、世界中で同時に鳴り響いていた。


記録に名前すら残らない職員たち。


恋人との約束を胸に戦っていた者。


幼い子どもの写真をロッカーへ貼っていた者。


故郷の家族へ毎月仕送りを続けていた者。


ただ隣の仲間を守ろうとした者。


その一人ひとりに人生があった。


夢があった。


守りたい誰かがいた。


それでも。


この日だけは、誰もが等しく命を狙われた。


「……なんなんだよ」


若い戦闘員が呟く。


目の前で倒れた同僚を見つめながら。


「誰も信じられねぇじゃねぇか……」


その声は、誰にも届かなかった。


世界政府本部。


対神交渉部門。


ダージリンは端末へ次々と流れ込む報告を見つめていた。


アフリカ支部。


関西支部。


ヨーロッパ。


北米。


南米。


世界中から届く被害報告が画面を埋め尽くしていく。


「独立系の神々へ追加支援を要請してください」


間髪入れず指示を飛ばす。


「負傷者の搬送経路も再確保を。まだ救える命があります」


冷静に。


いつも通り。


そう努めていた。


だが。


端末へ映る犠牲者の数だけは、どうしても見慣れることができなかった。


「……これほどとは」


小さく漏れた声は、誰にも聞こえない。


契約。


信頼。


約束。


世界政府を支えてきた秩序が、今まさに根元から崩れようとしていた。


そして。


世界中の誰もが、このまま戦いが終わらないと覚悟した、その時だった。


異変は唐突に終わる。


なりすました職員たちが、一斉に動きを止めた。


まるで見えない合図を受けたように。


そのまま後退する者。


裂け目へ飛び込む者。


何も言わず姿を消す者。


行動は違っても、目的は一つだった。


――撤退。


ほぼ同時に。


世界各地で裂け目が静かに閉じていく。


怪異も現れなくなる。


銃声が止む。


怒号が止む。


世界を覆っていた喧騒だけが、ゆっくりと静寂へ変わっていった。


「……終わったのか」


誰かが呟く。


返事はない。


終わったわけではない。


敵は倒したのではない。


ただ、自ら引いただけだ。


その理由を、この場の誰もまだ知らない。


残されたのは。


血に濡れた地面。


持ち主を失った装備。


そして。


二度と名前を呼ぶことのできない、多くの仲間たちだけだった。

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