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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード6
71/94

気づかぬ刃

「くそっ……!」


息が熱い。


裂け目から現れる怪異を斬り伏せながら、ギンは荒く呼吸を繰り返していた。


一体倒しても。


また一体。


終わりが見えない。


「ギンちゃん、右!」


「分かってる!」


叫び返す。


同時に右から飛び込んできた怪異へ刃を振るい、そのまま返す刀で二体目を切り裂く。


背後からは銃声。


振り返るまでもない。


エースが援護してくれている。


その確信があるからこそ、前だけを見て戦えた。


「まだ来るぞ!」


「はぁ……ほんと、キリがねぇな!」


思わず笑い混じりに悪態をつく。


こんな状況でも、隣にはエースがいる。


それだけで、不思議と安心できた。


やがて。


裂け目から現れる怪異の数が少しずつ減っていく。


空間の歪みも、ゆっくりと小さくなっていた。


「……終わった、か?」


肩で息をしながら刀を下ろす。


汗をぬぐい、隣を見た。


「なあ、エース」


息を整えながら苦笑する。


「この裂け目、一体なんなんだろうな。今までの事件とは規模が――」


言葉が止まった。


エースがこちらを見ている。


その顔に。


いつもの笑みがなかった。


「……エース?」


返事はない。


ただ。


静かに。


あまりにも静かに、武器を持つ腕だけが持ち上がる。


「……え?」


理解が追いつかない。


何をしている。


何で構える。


誰に向けて。


そんな疑問が頭を埋め尽くす。


その一瞬の隙を、刃は逃さなかった。


鋭い一撃が振り下ろされる。


「っ!」


反射的に身体をひねる。


完全には避け切れない。


肩口を刃がかすめ、焼けるような痛みが走った。


鮮血が飛ぶ。


「な……!」


息が詰まる。


何が起きたのか理解できない。


目の前にいるのは。


エースだ。


自分へ戦い方を教えてくれた人。


初めて対等に話せた先輩。


兄のように接してくれた人。


そのエースが。


自分へ刃を向けている。


「……なんで」


ようやく絞り出した声は、自分でも情けないほど震えていた。


目の前の"エース"は、小さく笑う。


「理由なんて、どうでもいいだろ?」


その笑みを見た瞬間。


ぞくり、と背筋が粟立つ。


違う。


笑い方が違う。


声の温度が違う。


目が違う。


全部違う。


なのに。


身体はまだ理解を拒んでいた。


「お前らはさ」


"エース"は肩をすくめる。


「少し削れてくれれば、それで十分なんだよ」


口元だけが吊り上がる。


エースなら、絶対に見せない笑みだった。


「……嘘だろ」


否定したかった。


何かの冗談だと。


悪い夢だと。


そう思いたかった。


でも。


目の前の現実だけは、容赦なく突きつけられる。


"エース"が再び武器を構えた。


今度は迷いがない。


狙いは、確実に急所。


肩の痛みで踏み込みが遅れる。


避けられない。


防げない。


間に合わない。


――死ぬ。


そう覚悟した、その瞬間。


視界の端を、一つの影が風より速く駆け抜けた。

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