つながる線
「――嘘、でしょ……」
震える声が、静まり返った情報解析局に落ちた。
ココアは伊達メガネの奥で目を見開いたまま、正面のモニターを凝視している。
部屋中のディスプレイには、世界各地から送られてくる情報が滝のように流れ続けていた。
警報。
現場映像。
座標。
被害報告。
どれも今この瞬間も更新され続けている。
キーボードを叩く指は止まらない。
「発生座標……時系列……裂け目の規模……」
一つずつでは見えない。
だから、全部重ねる。
画面の中で世界地図が何度も描き替えられ、無数のデータが一本の線として結び付いていく。
そして。
ココアは過去の事件データを呼び出した。
事件A――海外某国で発生したゾンビ大量発生事件。
事件B――超巨大怪獣ベヒモス出現事件。
事件C――孤島で発生した古代生物脱走事件。
事件D――円卓による世界政府への宣戦布告。
それぞれ無関係だと思われていた事件の記録が、次々と同じ画面へ重ねられていく。
「そんな……」
解析結果が表示される。
裂け目のエネルギー波形。
空間の歪み方。
発生前後の揺らぎ。
一致率――99.97%。
「全部……同じ……?」
思考が止まる。
いや、止められない。
今まで点だったものが、一本の線になっていく。
事件Aも。
事件Bも。
事件Cも。
そして円卓も。
全部。
最初から、同じ場所へ繋がっていた。
「向こう側……」
無意識にその言葉が漏れる。
これまで誰も正体を掴めなかった存在。
それが今、ようやく形を持ち始めていた。
だが。
ココアの思考はそこで終わらなかった。
「違う……まだ何かある」
彼女は現場から送られてきた別のデータを開く。
世界各地で同時に報告され始めた、理解不能の事件。
世界政府職員が突然仲間を襲った。
そんな報告が、何十件も届いている。
最初は内部スパイだと思った。
それしか考えられなかった。
ココアは顔認証データを開き、勤務履歴と照合する。
数秒後。
解析結果が表示された。
生体情報一致率 99.99%
「やっぱり本人……」
だが、その直後。
次の一文を見た瞬間、全身が凍りついた。
勤務記録・位置情報との整合性を確認できません。
ありえない。
同じ時間。
同じ人物が。
別々の場所に存在している。
「……そんなはず」
震える指で、さらに解析を進める。
通信履歴。
監視カメラ。
GPS。
行動ログ。
一つずつ照合するたび、否定したい仮説だけが補強されていく。
そして。
ココアは、小さく呟いた。
「スパイじゃ……ない」
世界政府の中に裏切り者がいたわけではない。
最初から。
"別の世界"に存在する同じ人物が、こちらへ侵入してきていただけだった。
「なりすまし……」
変装でもない。
洗脳でもない。
本人そのもの。
向こう側に存在する、もう一人の世界政府職員。
それがこちらへ侵入し、本物と入れ替わっていた。
「だから誰も気づけなかった……」
背筋を冷たいものが駆け上がる。
もし隣にいる同僚が。
毎日話していた仲間が。
昨日まで笑っていた友人が。
本物ではないとしたら。
誰が見抜けるというのだろう。
「っ……!」
ココアは勢いよく通信端末を掴む。
「全支部へ緊急共有!」
声が裏返る。
「敵は内部スパイじゃない! なりすましよ! 味方の姿をして潜入してる!」
送信。
世界中の支部へ一斉送信されていく。
その瞬間だった。
一人の顔が脳裏に浮かぶ。
「……ギンくん」
血の気が引く。
今この瞬間も。
彼の隣にいる人物が、本当に本人だと言い切れるのか。
「お願い……」
震える指が、通信端末を握り締める。
「間に合って……!」
警告は送られた。
だが。
神奈川支部へその情報が届くより早く。
運命は、すでに動き始めていた。




