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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード6
66/94

異変

「――で、結局いつまでこっちにいるんだよ、エース」


ギンが缶ジュースのプルタブを起こしながら尋ねる。


待機室のソファでは、エースが腕を枕にして寝転がり、大きなあくびを一つこぼした。


「さあな。円卓のあの物騒な宣戦布告のせいで、しばらくは各支部の戦力をかき集めることになるだろ」


「ああ……」


円卓が世界政府へ宣戦布告してから、まだ日も浅い。


世界各地の支部では戦力の再編が急ピッチで進められ、神奈川支部にも応援要員が次々と派遣されていた。


アメリカ支部所属のエースも、その一人だった。


「ま、俺は助かってるけどな」


エースが片目を開けて笑う。


「ギンちゃんの顔、見飽きねえし」


「気持ち悪いこと言うな」


思わず顔をしかめる。


けれど、その返事に本気で嫌そうな色はなかった。


エースが近くにいる。


その事実だけで、どこか肩の力が抜けている自分がいる。


そんな感覚に、ギン自身はまだ気づいていなかった。


その穏やかな時間は、あまりにも突然終わる。


待機室の照明が、不気味な赤へと切り替わった。


次の瞬間。


支部中を揺らすような低い警報音が鳴り響く。


これまで聞いたことのない警報だった。


腹の底まで震わせるような重低音が、途切れることなく施設全体へ流れていく。


「……なんだ、この警報」


ギンが立ち上がる。


それと同時に、ソファから飛び起きたエースの表情からも、さっきまでの気だるさが完全に消えていた。


『――全職員へ緊急通達』


室長の声が館内放送に乗って響く。


いつも通り落ち着いた声音。


それでも、その奥に張り詰めた緊張だけは隠せていなかった。


『世界各地にて、次元の裂け目の出現を同時多発的に確認。詳細は追って通知する。全戦闘要員は直ちに戦闘配置に就け』


一瞬。


部屋の空気が凍りつく。


「……世界各地?」


思わずギンは呟いた。


これまでの事件は、一つの街、一つの現場で起きていた。


だが今回は違う。


世界中。


その言葉が意味する規模を、頭が理解しきれない。


「同時多発、か……」


エースが低く呟く。


いつもの軽口はどこにもなかった。


「行くぞ、ギン」


「ああ」


それだけで十分だった。


二人は同時に待機室を飛び出す。


廊下では、装備庫へ駆ける職員たちが慌ただしく行き交い、無数の足音が施設中に反響していた。


誰もが険しい表情を浮かべている。


現場へ向かう時の緊張とは違う。


もっと根本的な何かが崩れ始めている――そんな空気だった。


ギンは湧き上がる緊張を一瞬だけ抑え込みながら、装備庫へ向かって駆け出した。


胸の奥で、理由の分からないざわめきが膨らんでいく。


――何かが起きる。


いや。


もう、起きてしまったのだ。


この日を境に。


世界は、二度と元には戻らなかった。

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