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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード4.5ー閑話
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バカ

人混みを抜け、境内の裏手までたどり着いてから、ユズはようやく足を止めた。


祭りの喧騒は木々に遮られ、ここまで届くのは風に乗った祭り囃子だけだった。境内の表では笑い声が響いているはずなのに、この場所だけが切り離されたように静かだった。


ユズは小さく息を吐く。


その瞬間、胸の奥に押し込めていた言葉が、また浮かび上がってきた。


――浮ついたの、良くないと思う。


――はっきり言って、邪魔。


「……っ」


思わず唇を噛む。


分かっている。


ああいう言い方しかできない人だということくらい、とっくに知っている。


照れ隠しなのか、素直になれないだけなのか。それとも本当に何も考えていないのか。


考えたって、答えは出ない。


それでも。


「……やっぱり、傷つくよ」


声にした途端、自分でも驚くほど弱い声だった。


ユズは懐から護符を取り出した。


結界の要となる岩へ、一枚ずつ慎重に貼り付けていく。


護符の角度。


霊脈との位置。


結び目の向き。


どれも一つでも狂えば意味がない。


だから手だけは、迷わなかった。


父に何度も教え込まれた手順を、体が覚えている。


――任務中。


余計なことを考えちゃ駄目。


そう言い聞かせても、意識は勝手にさっきの参道へ戻ってしまう。


あの小物入れは、屋台を何軒も見て回って選んだものだった。


派手じゃなくていい。


丈夫で、毎日使えるものがいい。


ギンはきっと、そういう方が好きだから。


ただ、それだけだった。


特別な意味なんて持たせるつもりはなかった。


……少しくらい、「ありがとう」って笑ってくれたら嬉しいな。


そんな小さな期待を、自分でも気づかないうちに抱いていただけだ。


「……バカ」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。


自分なのか。


ギンなのか。


それとも、勝手に期待してしまった、この気持ちなのか。


無意識に、自分の耳へ触れる。


指先が耳飾りを撫でた。


そして自然と、ギンの耳元を思い浮かべる。


あの日渡した耳飾りは、今もちゃんと付けてくれている。


それだけで嬉しかったはずなのに。


「欲張り、だな……」


小さく笑おうとして、笑えなかった。


風が吹き抜ける。


木々が揺れ、結界に組み込まれた護符がかすかに鳴った。


ユズは深く息を吸う。


ゆっくり吐く。


そして最後の護符を所定の位置へ貼り付ける。


「……大丈夫」


その一言は、自分自身へ向けたものだった。


今日は任務だ。


何が起ころうと、結界だけは守り切る。


そう決意して立ち上がったユズの耳に、遠くから祭り囃子が届く。


楽しげな音色だけが、今はまるで別の世界の出来事のように聞こえていた。

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