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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード4.5ー閑話
51/94

分析官

神奈川支部から送られてきた資料が、次々と端末へ展開されていく。


古い巻物を高精度でスキャンした画像、歴代の神職が書き残した祭事記録、地脈観測データ、過去数十年分の報告書。


「……なるほど」


伊達メガネの奥で、ココアの瞳が静かに細められる。


画面をスクロールする速度は速い。


それでも、一つ一つの数字も文章も見落としてはいなかった。


祭りが行われた年。


地脈の変動。


滲み出した穢れの規模。


動員人数。


結界の補強回数。


被害の有無。


それらを瞬時に整理し、現在の観測データと重ね合わせていく。


「過去データとの誤差……許容範囲外。」


数式が画面いっぱいに展開される。


地脈の流れを示す三次元モデルが回転し、予測シミュレーションが何通りも実行されていく。


数秒後。


解析結果が静かに表示された。


《予測危険度:S》


《過去最大観測値を更新》


《結界負荷予測:安全基準を超過》


「……やっぱり。」


小さく呟きながら、新しいレポートを開く。


過去の記録だけでは見えなかったものが、最新の解析技術によって少しずつ輪郭を持ち始めていた。


「今年だけ、地脈の揺らぎ方が違う。」


単なる周期では説明できない。


何か別の要因が重なっている。


現時点では断定できない。


けれど、警戒レベルを引き上げるには十分だった。


ココアはそのまま報告書を書き上げ、上官へ送信する。


数秒後、通信が繋がった。


『解析は終わったか』


「はい。」


先ほどまでの柔らかな口調は消えていた。


分析官としての声で、淡々と報告する。


「地脈活動は危険域へ到達しています。


過去最大規模の滲み出しが発生する可能性が高く、神奈川支部単独での対応は推奨しません。」


『追加戦力は』


「近隣支部との合同対応を推奨します。


それと、アメリカ支部から遊撃戦力を一部投入してください。」


『理由は』


「前衛の継戦能力が不足します。


結界維持班を減らせない以上、遊撃を厚くするしかありません。」


即答だった。


迷いはない。


必要な戦力を、必要な場所へ。


それだけを考えた結論だった。


『……了解した。』


少し間を置いて、上官が続ける。


『他には』


ココアは一瞬だけ資料へ視線を落とした。


「あと一つ。」


「できれば、私も現地へ向かわせてください。」


『分析官の現地派遣は珍しいな』


「リアルタイムでしか取得できない地脈データがあります。


解析精度を上げるなら、本部より現地です。」


そこに嘘はなかった。


現場でしか拾えない情報は、確かに存在する。


数秒の沈黙。


『許可する。』


「ありがとうございます。」


通信が切れる。


静まり返った解析室で、ココアはようやく背もたれへ身体を預けた。


「ふぅ……。」


ここまでは仕事。


全部、本音。


でも。


「……それに。」


ぽつりと呟く。


少しだけ、現場の空気も自分の目で見ておきたかった。


事件Bから続く違和感。


神奈川支部。


そして。


「……ギンくんもいるし。」


誰にも聞こえないくらい小さな声だった。


すぐに頬を軽く叩いて気持ちを切り替える。


「よし。」


仕事は仕事。


浮かれて判断を誤るつもりはない。


それでも。


鞄へ端末をしまいながら、前髪だけはいつもより少し丁寧に整えてしまう。


「……ほんと、何やってるんだろ。」


照れ隠しのように笑う。


転移魔方陣の起動準備が始まり、床一面に青白い光が広がっていく。


ココアはもう一度だけ、解析結果へ目を向けた。


《結界負荷予測:危険域》


《原因:解析不能》


笑みが、少しだけ消える。


「……嫌な予感、外れてくれるといいんだけど。」


小さく息をつき、ココアは光の中へ足を踏み入れた。

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