派遣理由
――数分前。
世界政府本部。
特別情報解析局。
『第一級緊急警報』
電子音が静まり返ったフロアへ響く。
『孤島秘密研究所にて収容違反を確認』
その瞬間。
部屋中のモニターが一斉に立ち上がった。
職員たちがそれぞれの端末へ駆け寄る。
「映像来ます!」
「生体反応急増!」
「第三収容区画、ロック解除を確認!」
飛び交う報告の中、ココアだけは椅子へ座ったまま画面を見つめていた。
伊達眼鏡を軽く押し上げる。
指がキーボードの上を走る。
監視ログ。
隔壁制御。
センサー記録。
収容プロトコル。
次々と画面が切り替わる。
「……ん?」
小さく眉が動いた。
事故なら、必ず痕跡が残る。
機器故障ならログが乱れる。
外部侵入なら警戒システムが反応する。
けれど。
どれにも当てはまらない。
「おかしい」
ココアは静かに呟く。
「ログだけが綺麗すぎる」
その一言で周囲の空気が変わる。
「主任?」
「事故じゃない」
即答だった。
「少なくとも、普通の事故じゃない」
画面を拡大する。
数日前の通信履歴。
事件B。
今回の警報。
並べて比較する。
似ている。
あまりにも。
『ココア主任』
通信が入る。
『対応部隊を選定してください』
ココアは即座に候補一覧を開いた。
孤島警備隊。
近隣支部。
機動部隊。
それぞれの到着予測時間が並ぶ。
普通なら迷わない。
研究所直属の部隊を投入する。
それが最短だ。
けれど。
ココアの指は止まった。
「……駄目」
小さく首を振る。
「直属は使えない」
証拠はない。
それでも。
事件Bの情報漏洩。
不自然な初動の遅れ。
そして今回。
偶然で片付けるには重なりすぎている。
もし内部に情報を流している人間がいるなら。
直属部隊へ情報を流すこと自体が危険になる。
「別系統から入れる」
画面を切り替える。
神奈川支部。
ユズのプロフィールが表示された。
封印術適性。
現場判断能力。
対怪異戦闘実績。
どれも十分。
「ユズちゃん」
その名前を確認すると、ココアはもう一つのデータを開く。
ギン。
横顔写真を見て、小さく笑った。
「この任務なら」
独り言のように呟く。
「ギンくんも一緒だね」
『理由を』
「ユズちゃん一人じゃ行かないから」
くすっと笑う。
「正確には、ギンくんが放っておかない」
職員が一瞬きょとんとする。
ココアは肩をすくめた。
「分析だよ?」
少しだけ悪戯っぽく笑ってから、表情を戻す。
「二人なら対応できる」
迷いはなかった。
「神奈川支部へ救助要請」
『了解』
「最優先コードで」
『了解』
通信が切り替わる。
ココアはもう一度、孤島研究所の映像を見る。
ノイズ。
崩れた監視カメラ。
途切れた生体反応。
そして。
誰かが意図的に隠したように空白になっている数秒間。
「……見つけるから」
誰にも聞こえない声だった。
「今度こそ、絶対に」




