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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード4
43/94

おわりの覚悟

いつまでも立ち止まってはいられなかった。


博士が命を懸けて繋いでくれた時間だ。


無駄にはできない。


そう自分へ言い聞かせながら、クロは震える足で立ち上がる。


地上へ出た研究施設は、もう別の場所になっていた。


建物の壁は崩れ落ち、研究設備は横倒しになり、土煙が風に舞っている。


遠くでは爆発音が響き、黒煙が空へ立ち上っていた。


かすかにヘリコプターの音も聞こえる。


けれど、まだ遠い。


「……隠れないと」


声は自分でも驚くほど弱かった。


瓦礫の隙間を縫うように歩き出す。


そのとき。


ドン――。


足裏へ重い振動が伝わった。


思わず立ち止まる。


ドン。


ドン。


一定の間隔で、大地そのものが揺れる。


クロはゆっくり振り返った。


崩れた外壁の向こう。


土煙を押し分けるように、巨大な影が姿を現す。


息を呑んだ。


見上げなければ全身が視界に収まらない。


太い後ろ脚。


岩のような胴体。


巨大な尾。


そして、人間を丸ごと噛み砕けそうな顎。


ティラノサウルス。


その名前だけが脳裏へ浮かぶ。


こんな個体が、この施設にいたのか。


そんな疑問さえ、すぐに消えた。


巨大な頭がゆっくり動く。


黄金色の瞳が、まっすぐクロを捉えた。


目が合う。


全身の血の気が引いた。


逃げなければ。


そう思う。


けれど体は動かなかった。


振り返る。


逃げ道は崩れた瓦礫で塞がれている。


右も左も壁。


逃げ場はない。


ティラノが一歩踏み出す。


地面が震える。


また一歩。


そのたびに距離が縮まる。


クロは動けなかった。


博士の背中が浮かぶ。


届かなかった手が浮かぶ。


閉じた隔壁が浮かぶ。


助けられなかった人たちの姿が、頭の中を静かに通り過ぎていく。


不思議と恐怖は少しずつ薄れていた。


代わりに、静かな諦めだけが胸へ広がっていく。


ティラノが目前で止まる。


ゆっくりと首が下がる。


生暖かい吐息が頬を撫でた。


巨大な顎が、音を立てて開く。


クロは抵抗しなかった。


ただ静かに目を閉じる。


――これで終わる。


そう思った。

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