第4話 逃げろ
ギンたちは家を出た。
いつもと変わらないはずの景色。
崩れた建物。
曇り空。
吹き抜ける風。
それなのに。
どこか、胸の奥がざわつく。
(……なんか、イヤな感じがする。)
気のせいだと自分に言い聞かせても、うなじのあたりがざわつくのは消えなかった。
――助けて。
風に乗って、かすかな叫び声が聞こえる。
遠すぎて、言葉までは聞き取れない。
しかし次の瞬間。
「逃げろーーー!!」
今度ははっきりとした叫び声だった。
ギンは思わず振り返る。
「……?」
「ケンカか?」
父が眉をひそめる。
「最近物騒だからねぇ……。」
母が困ったように苦笑した、その直後だった。
「逃げろ!!」
男が全力で駆けてきた。
顔は真っ青で、息は乱れ、何度も後ろを振り返っている。
「化け物だ!!」
そう叫ぶと、ギンたちの横を走り抜けていった。
「……化け物?」
意味が分からない。
「おい!」
父が男の背中へ叫ぶ。
「何があった!」
返事はない。
男は振り返ることすらせず、そのまま走り去ってしまった。
静寂が戻る。
全員の視線が、男の走ってきた路地へ向いた。
何かがいる。
逆光で姿は見えない。
人影のようなものが、ゆっくりと、こちらへ歩いてくる。
「……酔っ払い?」
ギンがつぶやく。
違う。直感的にそう思った。何かが、決定的におかしい。
その人影が、一歩、光の中へ踏み出した。
血だった。
顔一面を赤黒い血で染め、濁った瞳は何も映していない。
口元からは糸を引くように血が滴り落ちていた。
「……え。」
ギンの喉から、かすれた声が漏れる。
一瞬。
時間が止まったような静寂が訪れる。
次の瞬間だった。
その化け物は、すぐ近くにいた住民へ飛びかかった。
「ぎゃああああっ!」
悲鳴が響く。
肉を裂くような、生々しい音。
飛び散る鮮血。
「きゃあああっ!!」
母の叫び声が重なった。
「ギン!!」
父が叫ぶ。
「下がれ!!」




