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第3話 半分このパン
ギンは玄関の扉を押し開けた。
「ただいま。」
家の中には、焼きたてのパンの香ばしい匂いがふわりと漂っている。
小さな机と、使い込まれた椅子。
特別広くはないけれど、この場所はいつも不思議と温かかった。
「あら、おかえり。」
皿にパンを並べながら、母が優しく微笑む。
「今日は、張り切って焼いてみたの。」
母が得意げに言う。
新聞をたたんでいた父が顔を上げた。
「三人で半分こだな。」
「えっ。」
「育ち盛りなんだから。」
母がきっぱりと言い切る。
「……。」
何も言い返せない。
その様子に、父が吹き出した。
「ははっ。」
母もつられて笑う。
ギンも、思わず笑っていた。
特別なごちそうなんてない。
それでも、この小さな部屋には確かな笑顔があった。
ギンはその光景を静かに見つめる。
(こんな毎日が。)
(ずっと続けばいいのに。)
――そのときだった。
遠くから、誰かの叫び声が聞こえた。
最初は、誰も気に留めなかった。
けれど。
もう一度。
さっきよりも近くで。
そして今度は、はっきりと。
悲鳴が響いた。




