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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード4
39/94

群れ

博士が飛び出していってから、どれほど時間が経ったのか。


数十秒なのか。


数分なのか。


警報だけが鳴り続け、時間の感覚はとうに失われていた。


勢いよくモニタールームの扉が開く。


飛び込んできた研究員は肩で息をし、顔から血の気が引いていた。


「だ、駄目です……!」


壁に手をつき、息を切らせながら叫ぶ。


「檻が……何か所も……!」


「落ち着いてください!」


クロが声をかけても、研究員は首を激しく振る。


「三頭……いや、もっといる……!」


その言葉だけ残して、研究員は再び廊下へ駆け出していった。


クロは扉の前で立ち尽くす。


廊下の奥。


赤い非常灯が点滅する薄暗い通路に、小さな影が滑るように現れた。


二本脚。


低い姿勢。


長く伸びた尾。


床を爪が引っかく、乾いた音。


――ヴェロキラプトル。


頭が勝手に答えを出していた。


図鑑で見た骨格。


復元模型。


研究資料。


すべてが一瞬で繋がる。


一頭。


そう思った瞬間。


その後ろから、もう一つ影が現れる。


さらにもう一つ。


互いの距離を保ちながら、音もなく前へ進む。


まるで獲物を囲むことを知っているような動きだった。


クロの喉が鳴る。


そのとき。


「クローーッ!」


博士の声が響いた。


通路の向こうから、全力で走ってくる。


「博士!」


安堵したのも束の間だった。


博士の背後。


三頭のラプトルが床を蹴る。


人間とは比べものにならない速さで距離を詰めてくる。


逃げなきゃ。


そう思う。


体は命令を受け取っている。


なのに。


足だけが床へ縫い付けられたように動かなかった。


心臓だけが激しく暴れる。


呼吸が浅くなる。


声も出ない。


「クロ!」


博士が飛び込むように駆け寄る。


そのまま腕を掴み、力任せに引いた。


「走れ!」


体が前へ投げ出される。


ようやく足が動いた。


二人は廊下を駆ける。


後ろから、何かが床を蹴る音。


爪が金属を擦る耳障りな音。


そして。


短い悲鳴。


反射的に振り返ってしまう。


赤い非常灯の下で、一人の研究員が転倒するのが見えた。


その周囲へ黒い影が一斉に飛びかかる。


視界が途切れる。


「見るな!」


博士の怒鳴り声が飛んだ。


クロは前を向く。


涙で景色が滲む。


それでも走る。


走るしかなかった。


背後では、鳴り止まない警報と、人ではない咆哮が、研究所中へ響き渡っていた。

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