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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード4
38/94

異常発生を知らす鐘

保管庫の点検を終えたクロと博士は、管理エリアのモニタールームへ戻ってきた。


壁一面に並ぶ監視画面には、施設各所の映像が映し出されている。


その中の一台だけが、ざらついたノイズに覆われていた。


「……あれ」


クロは足を止める。


「このモニターだけ映ってません」


博士が近づき、画面を覗き込む。


「ああ、地下じゃたまにある。電磁ノイズだ」


そう言うと、慣れた手つきでモニターの側面を軽く叩いた。


画面が一瞬暗転し、映像が戻る。


薄暗い収容通路。


並ぶ隔壁。


何重ものロック。


「ほら、直った」


博士は気にした様子もなく笑う。


クロも頷きかけた。


けれど。


――今。


画面の端に映った収容室。


扉が、少しだけ開いていたような気がした。


数センチ。


本当に、それくらい。


瞬きをした次の瞬間には、もう閉まっていた。


「……」


見間違い。


そう思うことにした。


そのほうが自然だった。


施設の収容設備が、そんな簡単に壊れるはずがない。


そのとき。


照明が一瞬だけ落ちた。


施設全体が息を止めたような静寂。


すぐに明かりは戻る。


「停電か?」


博士が眉をひそめる。


直後だった。


けたたましいサイレンが施設中へ響き渡る。


耳をつんざく警報音。


赤い非常灯が一斉に点滅し始めた。


『――緊急警報』


機械的なチャイムのあと、無機質な音声が流れる。


『収容違反発生。収容違反発生』


モニタールームの空気が一変する。


『第三収容区画にて、個体の逸脱を確認』


誰かが息を呑む音が聞こえた。


『全職員は直ちに最寄りの安全区画へ避難してください』


同じ放送が繰り返される。


「……収容違反?」


クロの声は、自分でも驚くほど小さかった。


博士の顔から笑みが消える。


「第三区画って……」


その表情が強張る。


「あそこ、大型肉食種のエリアじゃねえか……!」


廊下の向こうで誰かが叫んだ。


続いて、何人もの足音が一斉に駆け抜けていく。


「博士!」


クロが呼び止めるより早く、博士は走り出していた。


「クロ! お前はここを動くな!」


「でも――!」


返事はなかった。


背中は角を曲がり、あっという間に見えなくなる。


残されたのは、鳴り止まない警報だけだった。


クロは無意識にモニターへ目を向ける。


ノイズの走る画面。


砂嵐の向こうで、何かが動いた。


黒い影。


次の瞬間には消えている。


「……」


喉が鳴る。


逃げなきゃ。


そう思う。


なのに足が動かない。


指先だけが小さく震えていた。


そのとき。


別の監視カメラの映像に、人影が映る。


廊下を走る研究員。


その背後を――


巨大な影が、一瞬で横切った。


画面が激しく揺れ、映像はそこで途切れた。

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