おかえり
支部へ戻った頃には、すっかり夜になっていた。
シャワーを浴び、装備を返却し、ようやく任務が終わる。
身体は重い。
瞼も重い。
それでもエースは自然と共用ラウンジへ足を向けていた。
扉を開ける。
途端に、賑やかな笑い声が飛び込んできた。
「あっ、帰ってきた!」
「エースさん、お疲れさまです!」
「カサンガだったんですよね?」
「生きて帰ってきたー!」
「縁起でもねぇこと言うな」
エースは苦笑しながらソファへ倒れ込む。
「もう今日は一歩も動きたくねぇ……」
「はい」
近くにいた職員が缶ジュースを放って寄越した。
片手で受け取る。
「お、気が利くじゃん」
「今日はサービスです」
「明日も頼む」
「それは有料で」
「世知辛ぇ」
ラウンジに笑いが広がる。
ギンも少し遅れて部屋へ入ってきた。
すると朝と同じ職員が手を振る。
「ギン!」
「こっちこっち!」
モニターには対戦ゲームが映っていた。
「新作なんですよ!」
「今みんなでやってるんですけど、一緒にどうです?」
ギンは画面を見る。
一秒。
二秒。
「……興味ない」
そう言って視線を逸らす。
「またまたー」
「朝も同じこと言ってましたよね?」
横からエースが笑う。
「絶対気になってるって」
「気になってない」
「今見てたじゃん」
「見てない」
「嘘つけ」
ギンは小さく舌打ちする。
その反応が面白くて、ラウンジの空気がまた少しだけ明るくなった。
戦闘の話をする者はいない。
誰がゲームで負けたとか。
食堂の新メニューが外れだったとか。
来月の非番がいつになるとか。
命懸けの仕事をしている人間とは思えないほど、他愛のない会話ばかりだった。
エースは缶ジュースを一口飲む。
(……いいな)
こういう時間があるから。
また戦場へ行ける。
そう思えた。
隣では、ギンがもう一度だけゲーム画面へ目を向けている。
本人は気付かれていないつもりらしい。
エースは吹き出しそうになるのを堪えた。
「ギン」
「何」
「今度、教えてやるよ」
「……何を」
「ゲーム」
ギンは少しだけ目を丸くする。
すぐにいつもの仏頂面へ戻った。
「気が向いたらな」
「おう」
それだけ言い残し、ギンは欠伸を噛み殺しながらラウンジを後にする。
その背中を見送り、エースは静かに笑った。
天井には照明が並び、昼も夜も変わらない光が支部を照らしている。
地底都市には、本物の空はない。
それでも。
笑い声があって。
仲間がいて。
帰って来られる場所がある。
それだけで、ここは確かに日常だった。




