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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード2
22/94

帰路



 カサンガでの掃討作戦が終了した頃には、太陽は西へ大きく傾いていた。


 現場ではすでに後処理が始まっている。


 崩れた道路には重機が入り、仮設の足場が次々と組まれていく。


 隔離線は順に撤去され、防護服姿の職員たちが住民の誘導を続けていた。


 きっと数日もすれば、この街は何事もなかったような顔を取り戻す。


 報道では事故として処理され。


 人々の記憶は少しだけ書き換えられ。


 怪異という存在は、また世界から静かに消される。


 それが世界政府の仕事だった。


 エースは輸送機へ乗り込み、ようやく息を吐く。


 アメリカ。


 そしてカサンガ。


 二つの現場を休む間もなく駆け回り、身体は鉛のように重かった。


 最初の現場がどう片付いたのか。


 確認する時間すらなかった。


 任務が終われば次の任務。


 それが、自分たちの日常だった。


 機体がゆっくりと浮かび上がる。


 窓の外では夕焼けが雲を赤く染め始めていた。


「……さすがに疲れたな」


 隣でギンがぽつりと呟く。


 その声には、もう戦場にいた時の張りはない。


「だな」


 エースも苦笑する。


「悪かったな。付き合わせて」


「だから」


 ギンは小さく肩をすくめる。


「あんたのせいじゃない」


「まあ、そうなんだけどさ」


 二人は少しだけ笑った。


 しばらく沈黙が続く。


 エンジン音だけが機内へ響いていた。


「でも」


 不意にギンが口を開く。


「あんたと組む任務なら」


 一度だけ言葉を切る。


「……嫌いじゃない」


 エースは思わず目を瞬かせた。


「お」


「今日は素直だな」


「惚れんなよ?」


「疲れてる時に気持ち悪いこと言うな」


「ひでぇ」


 思わず吹き出す。


 ギンも呆れたように息を吐いた。


 それから背もたれへ身体を預ける。


 瞼がゆっくり閉じていく。


 ほんの数秒前まで返事をしていたはずなのに。


 次の瞬間には、もう規則正しい寝息が聞こえていた。


「……寝るの早」


 エースは小さく笑う。


 本当に限界だったのだろう。


 その寝顔は、戦場で見せていた険しさが嘘のように穏やかだった。


 起こす気にはなれない。


 毛布を肩へ掛け直し、エースは窓の外へ視線を向ける。


 どこまでも続く雲海。


 その向こうで、世界は何事もなかったように今日を終えようとしている。


 だが。


 本当にそうなのだろうか。


 今回の事件。


 世界各地で同時に発生した怪異。


 互いに関係のない土地。


 関係のない人々。


 関係のないはずの事件。


 ――本当に。


 胸の奥へ、小さな違和感が沈んでいく。


 言葉にはならない。


 証拠もない。


 ただ、それだけが静かに残った。


 エースは目を閉じる。


 考えるのは、また今度でいい。


 今は少しだけ眠ろう。


 輸送機は夕焼けに染まる雲の上を、静かに飛び続けていた。


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