終わらぬ任務
撤収準備を始めようとした矢先だった。
エースの端末へ、新たな通知が届く。
内容を確認した彼は、小さく息を吐いた。
「……帰れなくなった」
その一言で十分だった。
ギンは何も聞かず、端末を受け取る。
表示されていたのは、たった数行の命令文。
第三支援要請。
アフリカ方面。
現地部隊の戦力不足。
即応可能部隊は、直ちに転移せよ。
「今からか」
「今からだ」
疲労の滲む声だった。
それでも拒否するという選択肢はない。
二人は装備を整え直し、支部地下に設けられた転移施設へ向かう。
円形の部屋。
床一面に描かれた巨大な魔方陣が、淡い光を放っていた。
中央では、数人の術師が詠唱を続けている。
「座標固定、完了しました」
一人の術師がエースへ向き直る。
「また連続出動ですか」
「休めています?」
「休めてたら今頃ベッドで寝てる」
エースは肩をすくめて笑う。
術師は申し訳なさそうに目を伏せた。
「本来なら別部隊を回したいんですが……」
「分かってる」
エースは苦笑する。
「人が足りねぇんだろ」
責める気はなかった。
術師もまた、この仕組みの中で働く一人に過ぎない。
「……行くぞ」
ギンと並び、魔方陣の中央へ立つ。
足元の紋様が一斉に輝きを増した。
光。
浮遊感。
身体が一瞬だけ引き伸ばされるような感覚。
次の瞬間。
熱風が頬を叩いた。
乾いた空気。
焦げた臭い。
砂埃。
見上げれば、さっきまでとはまるで違う空が広がっている。
「ようこそ、カサンガへ」
現地職員が二人を迎えた。
「応援ありがとうございます」
その声には安堵よりも疲労が滲んでいた。
エースは周囲を見渡す。
崩れた建物。
延々と続く隔離線。
白い防護服の集団。
そして。
遠くから聞こえる無数の唸り声。
「……広いな」
思わず漏れた声は、アメリカで見た現場よりも重かった。
視界の果てまで続く被害。
終わりが見えない。
ギンも無言でその景色を見つめていた。
疲れている。
それは誰の目にも明らかだった。
それでも、彼は銃を握り直す。
「終わったら」
エースがぽつりと言う。
「ハンバーガー奢ってやる」
ギンは少しだけ笑った。
「その前に寝たい」
「それもそうか」
二人は短く笑い合う。
その時間は、三秒も続かなかった。
建物の陰から、一体の怪異が姿を現す。
続いて、もう一体。
さらに、その奥からも。
エースは静かに銃を構える。
「……仕事の時間だ」
乾いた銃声が、異国の空へ響き渡った。




