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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード2
19/94

理不尽な当たり前



 仮設補給ポイントは、束の間の静けさに包まれていた。


 遠くでは銃声がまだ断続的に響いている。


 それでもここだけは、張り詰めていた空気が少しだけ緩んでいた。


 エースは補給箱から栄養バーを一本取り出す。


「……またこれか」


 包装を破る。


 一口。


 もぐもぐ。


 少しだけ黙る。


「うまくねぇ」


「知ってる」


 隣で同じものを食べていたギンが即座に返した。


「せめてハンバーガーならなぁ」


「こんな現場にあるわけないだろ」


「夢くらい見させろよ」


 ギンは小さく笑う。


 さっきまでの重苦しい空気が、少しだけ薄れていく。


 その時だった。


「失礼します」


 後方支援担当らしい職員が、端末を抱えて二人の前を通る。


「第三区画、掃討完了を確認しました」


「この先は回収班へ引き継ぎます」


「お疲れさまでした」


「おう、よろしく」


 エースが軽く手を上げる。


 職員は一礼すると、そのまま足早に去っていった。


 ギンはその背中を見送りながら呟く。


「……装備、綺麗だったな」


「あいつ?」


 エースも振り返る。


「ああ。試験組だからな」


「試験組?」


「実力選抜」


 栄養バーをかじりながら説明する。


「最初から幹部候補みたいなもんだ」


「危険度の低い任務から経験を積んで、順当に出世していく」


「俺たちとはコースが違う」


 ギンは少し考える。


「じゃあ神隠し出身は?」


「現場」


 即答だった。


「だいたい一番危ない所」


「実戦経験は山ほど積める」


「その代わり、待遇はそう簡単に上がらない」


 エースの声は驚くほどあっさりしていた。


 愚痴でも、不満でもない。


 ただ、昔からそういう仕組みだという事実を話しているだけだった。


「……理不尽だな」


「そうだな」


 エースは苦笑する。


「でもさ」


 包装紙を丸めながら空を見上げた。


「俺は嫌なんだよ」


 ギンは黙って続きを待つ。


「神隠し出身だからって理由だけで、頑張ったやつが報われないのは」


 風が吹く。


 遠くで煙が揺れる。


 エースは笑った。


 いつもの軽い笑顔だった。


「だから、そのうち全部ひっくり返してやる」


「神隠しとか試験組とか関係なくさ」


「ちゃんと実力で評価される組織にしたい」


 大きな夢だった。


 あまりにも大きすぎて。


 普通なら笑われてもおかしくない。


 けれど、その言葉には不思議と冗談めいた響きがなかった。


 ギンはしばらく黙っていた。


 やがて小さく笑う。


「……できそうだな」


「お、信じてくれる?」


「少しくらいは」


「少しかよ」


 エースは笑いながらギンの頭を軽く小突く。


「痛っ」


「生意気な後輩には教育的指導だ」


「ただの八つ当たりだろ」


「バレた?」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


 ほんの数分前まで怪異と戦っていたとは思えないほど、穏やかな時間だった。


 だが、その休憩も長くは続かない。


 無線機が短くノイズを鳴らした。


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