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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード2
17/94

掃討開始



 住宅街は、死んでいた。


 窓ガラスは割れ、道路には放置された車が折り重なっている。


 風が吹くたび、どこかで看板が軋む音だけが響いた。


 その静寂を破るように、AAAが低く駆動音を鳴らす。


 全身を包む対怪異アーマー。


 関節へ電力が流れ、人工筋肉が静かに膨張する。


 エースは握った拳を一度だけ開閉した。


 準備完了。


 隣ではギンも同じように装備を確認している。


 TypeⅠ。


 制式装備だ。


 一方、エースが身に着けるのは実戦成績に応じて支給されたTypeⅡ。


 性能差はある。


 だが、それを口にすることはない。


「右前方」


 エースが短く告げる。


 崩れた民家の陰から、一体の人影が姿を現した。


 濁った瞳。


 垂れ下がった腕。


 腐敗した肉を引きずりながら、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「一体。任せる」


「了解」


 ギンが対怪異戦闘銃を構えた。


 乾いた銃声。


 同時にAAAが反動を受け止める。


 放たれたAP弾は一直線に頭部を撃ち抜き、怪異はその場へ崩れ落ちた。


 二度と動かない。


「ナイス」


「左奥」


「見えてる」


 二発。


 三発。


 迷いのない射撃。


 最初に出会った頃とは別人だった。


 世界政府へ来たばかりのギンは、怪異を前に立つことすらできなかった。


 今では敵を冷静に観察し、必要な一発だけを撃ち込める。


(成長したな)


 エースは胸の内だけで呟く。


 今は褒める時間じゃない。


 その時だった。


 低いうめき声が、住宅街の奥から重なって聞こえてくる。


 一体。


 二体。


 三体。


 いや――。


「……多いな」


 瓦礫の隙間から次々と人影が現れる。


 十体。


 二十体。


 まだ増える。


「ギン!」


「分かってる!」


 言葉はそれだけで十分だった。


 エースは地面を強く踏み込む。


 瞬間。


 爆縮推進が起動した。


 轟音。


 景色が一気に後ろへ流れる。


 常人なら全身の骨が砕ける加速を、AAAが受け止める。


 戦闘機動――《縮地》。


 一瞬で群れの側面へ回り込んだエースは、腰のダイヤモンドブレードを抜き放つ。


 銀色の刃が閃く。


 腐敗した腕が宙を舞う。


 続けて首。


 肩。


 肉も骨も、抵抗なく切り裂かれていく。


「ガァァァッ!」


 一体が飛び掛かった。


 牙がエースの顔へ迫る。


 だが届かない。


 青白い光が一瞬だけ走り、ヘッドプラズマシールドが牙を弾き返した。


「近い近い」


 エースは笑うことすらなく、銃を抜く。


 パンッ。


 パンッ。


 パンッ。


 三発。


 三体。


 撃った瞬間には、もう次の敵を見ていた。


「……相変わらずだな」


 瓦礫の陰から援護射撃を続けるギンが呟く。


 同じ銃。


 同じ弾。


 それでもエースは照準器を覗かない。


 身体が先に動く。


 何百回、何千回と怪異を倒してきた経験だけが生み出せる速度だった。


「ギン!」


「後ろへ下がれ!」


「援護に徹しろ!」


「了解!」


 迷わず狙撃位置へ移動する。


 ギンの銃声が響くたび、一体ずつ怪異が崩れていく。


 その射撃は正確だった。


 正確すぎるほどに。


 冷静さの奥に、何か別の感情が少しずつ混じり始めていることに、エースは気づいていた。


 だが今は、それを確かめる余裕はない。


 怪異の群れは、なおも住宅街の奥から溢れ続けていた。


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