打ち合わせ
仮設テントの中では、十数人の職員が慌ただしく行き交っていた。
通信機からは絶え間なく無線が飛び交い、モニターには現場映像と地図が映し出されている。
空気は張り詰めていた。
誰一人として無駄話をしていない。
「エース、ギン。こっちだ」
担当官に呼ばれ、二人は投影された地図の前へ立つ。
住宅街を中心に、赤い光点が無数に点滅していた。
「発生は昨夜二十三時四十分」
担当官は説明を始める。
「最初の通報は住宅街で発生した心肺停止事案だ」
地図の一点が拡大される。
「だが問題はその後だった」
映像が切り替わる。
監視カメラの荒い映像。
倒れていた人物が、不自然な動きでゆっくり立ち上がる。
首が折れ曲がったまま。
腕を引きずりながら。
それでも歩き始めていた。
ギンが僅かに目を細める。
「死亡確認から数分後、自力で再活動」
「以降、接触者を中心に被害が拡大している」
エースは腕を組む。
「感染源は?」
「不明」
担当官は即答した。
「既知の怪異データベースとも一致しない」
「珍しいな」
「だから厄介なんだ」
担当官が次のデータを表示する。
地図上の赤い光点が一気に増えた。
「当初は住宅街一区画のみと判断していた」
「だが三時間後には三区画」
「現在、確認済みだけでも発生地点は当初の約三倍だ」
テントの空気がさらに重くなる。
「隔離線も拡張中だが、速度が追いついていない」
担当官は二人へ視線を向けた。
「エース、ギン」
「お前たちは第三区画を担当する」
「目標は封じ込め」
「対象の殲滅を優先しろ」
ギンが静かに尋ねる。
「生存者は」
「保護できるなら保護する」
一拍置いて続けた。
「だが最優先ではない」
「これ以上広げないことが任務だ」
その言葉の意味を、二人とも理解していた。
逃げ遅れた人がいたとしても。
一人を助けようとして封じ込めが破綻すれば、犠牲者は何倍にも膨れ上がる。
世界政府は、その判断を下す組織だった。
担当官は机の上へ弾倉を並べる。
「通常弾は使用するな」
黒い弾倉。
白いラインが一本入っている。
「AP弾だ」
「対怪異専用」
「組織破壊能力を優先した弾薬だ」
担当官は弾倉を手に取る。
「対象は四肢を失っても活動を継続する」
「胴体を撃っても止まらない」
「頭部機能の完全停止を確認するまで、無力化したとは判断するな」
ギンは静かに頷く。
「了解」
エースは苦笑する。
「毎度毎度、面倒な連中ばっかだな」
「油断するな」
担当官は即座に返した。
「今回の相手は、いつも以上だ」
その一言だけが妙に引っ掛かった。
エースは地図へ視線を戻す。
赤い光点。
一つ。
二つ。
三つ。
いや。
まだ増えている。
気のせいか。
それとも――。
「以上だ」
担当官が地図を消す。
「質問はあるか」
「ない」
エースは即答した。
「行くぞ、ギンちゃん」
「その呼び方やめろ」
「却下」
いつもの軽口。
だが二人の足取りに迷いはない。
テントを出たその背後で、誰にも気づかれないまま、地図の端に新しい赤い光点が一つだけ灯った。




