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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード2
14/94

任務と慣れ



 低い駆動音が、輸送機の機体を絶え間なく震わせていた。


 窓の外には、一面の雲海。


 目的地までは、まだ少しかかる。


 エースは座席に深く腰掛けながら、対怪異戦闘銃の弾倉を抜いては差し込み、また抜いては差し込む。


 任務前になると、無意識に繰り返してしまう癖だった。


「……また始まった」


 向かいの席で装備を点検していたギンが、呆れたように呟く。


「落ち着くんだよ」


「見てる方は落ち着かねぇ」


「ちゃんと確認してるだけだって」


「さっきから十回以上確認してる」


「十一回目かもしれない」


「そういうところだ」


 ギンは肩をすくめる。


 数か月前なら、こんな軽口に付き合う余裕はなかった。


 神奈川支部へ保護されたばかりの頃のギンは、世界政府も怪異も、自分の置かれた状況すら半信半疑だった。


 それでも記憶処理だけは最後まで拒み、誰にも心を開こうとはしなかった。


 そんな彼を任されたのが、エースだった。


 戦闘の基礎。


 怪異との戦い方。


 世界政府で生き残るための知識。


 教えることは山ほどあった。


 だが、一番驚いたのは別のことだった。


「最初、お前さ」


 エースが思い出したように笑う。


「俺のこと、めちゃくちゃ睨んでたよな」


「……あんたが怪しかったから」


「初対面で?」


「初対面だから」


「ひでぇなぁ」


「事実だ」


 その言葉に苦笑する。


 けれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。


 エース自身も、世界政府に拾われたばかりの頃は同じ目をしていたからだ。


 家族を怪異に奪われ、独りになった少年。


 その境遇まで、二人はよく似ていた。


 だからだろう。


 教官と教え子だった関係は、思っていたより早く崩れた。


 今では上司と部下という肩書きだけが残り、中身は気の置けない相棒に近い。


「そういや」


 エースがにやりと笑う。


「最近は『エースさん』って呼ばなくなったな」


「呼ぶ必要あるか?」


「先輩を敬えよ」


「尊敬できるところ探してから考える」


「厳しい!」


 思わず笑い声が漏れる。


 ギンも小さく息を吐いた。


 その表情は、初めて会った頃とは比べものにならないほど柔らかい。


 任務にも慣れた。


 戦いにも慣れた。


 そして、こうした何気ないやり取りにも。


 エースは、それが少し嬉しかった。


 機体が小さく揺れる。


 操縦席の方から通信が入った。


 短い電子音。


 それと同時に、エースの端末も震える。


 笑みが消えた。


 画面へ視線を落とす。


 数秒。


 それだけで十分だった。


「……速報だ」


 ギンも自然と表情を引き締める。


「現場か」


「ああ」


 エースは端末を閉じる。


「詳細は現地ブリーフィング。でも──」


 一拍置く。


「思ってたより、面倒な案件かもしれねぇ」


 輸送機がゆっくりと降下を始める。


 窓の外では雲が切れ始め、その下に町並みが姿を現そうとしていた。


 まだ誰も、その町で何が起きているのかを知らない。


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