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VERSE0.0-世界政府記録アーカイブ文書001  作者: 甘酒
エピソード2
13/94

一日の始まりー世界政府戦闘員



 世界政府アメリカ支部の食堂は、朝から賑やかだった。


 焼きたてのパンの香り。コーヒーの湯気。食器が触れ合う軽やかな音。


 各国から集められた職員たちが、それぞれ好きな朝食を手に席へ向かい、思い思いに会話を交わしている。


 英語、中国語、スペイン語、日本語。


 本来なら入り乱れるはずの言葉は、耳元の同時翻訳インカムのおかげで、誰にとっても自然な母国語として聞こえていた。


 そんな食堂の一角へ、山盛りのフライドポテトと特大ハンバーガーを載せたトレーを持った青年が現れる。


「今日も朝からそれかよ……」


 向かいへ腰を下ろしたギンが、呆れたようにため息をついた。


 彼の朝食はパンとスープ、サラダという実に健康的な組み合わせだ。


「朝はガッツリ食わないと動けないだろ?」


 エースは笑いながらハンバーガーへ豪快にかぶりつく。


「これは朝飯じゃない」


「え?」


「朝のウォーミングアップだ」


「意味分かんねぇよ」


 即座に返ってきたツッコミに、エースは豪快に笑う。


 そこへ、近くを通った職員が声を掛けてきた。


「お、エース! またバーガーか!」


「今日も絶好調だな!」


「ポテト一本くれ!」


「断る」


「即答かよ!」


「これは俺の命だからな」


「ポテトが?」


「HPだ」


「ゲーム脳すぎるだろ」


 周囲から笑い声が上がる。


 エースもつられて笑いながらポテトを頬張った。


 こうして誰とでも気軽に話し、自然と場を明るくしてしまう。


 それが、この支部でのエースだった。


「任務じゃ頼りになるのにな」


「普段との差が激しすぎる」


「褒め言葉として受け取っとく」


 軽口を返すエースに、職員たちは笑いながら持ち場へ戻っていく。


「人気者だな」


 ギンがぼそりと呟く。


「まぁな」


「否定しろ」


「事実だから仕方ない」


「うわ、自分で言った」


「そこ笑うところだから」


 ギンは呆れながらスープを口に運ぶ。


 その時だった。


 食堂の隅から歓声が上がる。


「ナイス!」


「そこ決めるか!」


「もう一戦!」


 数人の職員が携帯ゲーム機を囲み、朝から盛り上がっていた。


 エースの視線が一瞬でそちらへ吸い寄せられる。


「あー……今日もやってる」


 羨ましそうに眺めるその姿は、まるでおもちゃ屋の前を通りかかった子どものようだった。


「混ざりたい」


「朝飯食ったばっかだろ」


「一戦だけ」


「絶対終わらないやつだ」


「いや、一戦だけ」


「昨日もそう言って三時間やってた」


「……覚えてた?」


「忘れるか」


 ギンは半ば呆れながらパンをちぎる。


 その横で、ゲーム機を囲む職員たちを見つめる。


 ほんの一瞬だけ。


 本当に一瞬だけだった。


「……面白いのか、それ」


 ぽつりと漏れた一言。


 エースは聞き逃さなかった。


「お、興味ある?」


「別に」


「じゃあ今度一緒に──」


「やらない」


「最後まで聞けよ」


 ギンは視線を逸らす。


 その口元だけが、ほんの少しだけ緩んでいた。


 数か月前まで、こんな何気ない朝を過ごすことすらなかった少年が、少しずつこの日常へ溶け込み始めている。


 エースは、それが少し嬉しかった。


 食事を終えた二人は、そのまま訓練場へ向かう。


 廊下でも職員たちが次々と声を掛けてきた。


「エース、おはよう!」


「今日は久々のオフじゃなかったか?」


「その予定だったんだけどな」


「お、嫌な予感しかしない言い方」


「縁起でもないこと言うなって」


 笑いながら手を振る。


 その瞬間だった。


 ピリリリリリッ――。


 耳をつんざくような電子音が、静かな廊下へ鋭く響いた。


 エースの携帯端末。


 定時連絡とは明らかに違う、緊急招集専用のアラート。


 周囲の職員たちも一斉に表情を引き締める。


 さっきまでの笑い声が嘘のように消えた。


 エースは端末へ視線を落とす。


「……マジか」


「どうした」


 ギンが覗き込む。


「海外で大規模事案発生。即応部隊、全隊員招集だ」


 短い文章。


 それだけで十分だった。


「行くのか」


「行くしかねぇだろ」


 さっきまで笑っていた青年はもういない。


 即応部隊隊員・エースとしての顔に切り替わっていた。


 二人は訓練場とは反対方向――出撃準備区画へ向かって駆け出す。


 穏やかだった朝は、わずか数秒で終わりを告げた。


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