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# 第16話 ## 「未来の自分」

# 第16話


## 「未来の自分」


「黒塔の王の正体は――あなたです」


ルナのその一言は、まるで世界そのものを凍りつかせる呪文のようだった。


天剣山の山頂。


夕暮れの風が吹いている。


さっきまで聞こえていた鳥の鳴き声さえ、どこか遠くへ消えてしまったようだった。


誰も言葉を発することができない。


修司自身も、何を言えばいいのかわからなかった。


ただ、ルナの顔を見つめる。


震える唇。


今にも泣き出しそうな瞳。


冗談を言っている顔ではなかった。


---


「……俺が?」


ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど小さかった。


「未来の俺が、黒塔の王……?」


---


ルナはゆっくりとうなずいた。


その仕草は重かった。


まるで、その事実を認めること自体が苦痛であるかのように。


---


「はい……」


---


エルナが首を振る。


---


「そんなの絶対におかしい!」


---


普段は冷静な彼女が、珍しく感情を露わにしていた。


---


「修司さんが世界を滅ぼすなんてありえない!」


---


「そうだぞ!」


ミーナも大声を上げた。


---


「おじさんは優しい!」


---


「困ってる人を見たら放っておけないし!」


---


「ご飯もくれるし!」


---


「最後だけ少し違う気がするな……」


修司は苦笑した。


---


だが、その笑顔も長くは続かなかった。


---


ルナの表情を見たからだ。


---


彼女は泣いていた。


---


ぽろり。


---


ぽろり。


---


涙が頬を伝う。


---


「私だって……」


---


ルナは声を震わせた。


---


「私だって信じたくありませんでした……」


---


その言葉に、誰も何も言えなくなる。


---


ルナは未来から来た。


未来を知っている。


だからこそ、その言葉には重みがあった。


---


修司は静かに聞いた。


---


「何があったんだ」


---


ルナは空を見上げた。


夕焼けが広がっている。


まるで血の色のような赤だった。


---


「十年後――」


---


彼女は語り始めた。


---


それは、誰も知らない未来。


---


誰も見たくなかった未来。


---


黒い塔との戦争は長く続いた。


一年。


二年。


三年。


---


何度も戦った。


---


何度も勝った。


---


何度も負けた。


---


それでも修司たちは前に進んだ。


---


仲間たちは強くなった。


---


エルナは王国最高の魔導士になった。


---


セシリアは騎士団長から王国軍総司令官になった。


---


ミーナは獣人たちの希望になった。


---


みんな成長した。


---


みんな笑っていた。


---


未来は明るい。


---


そう思っていた。


---


だが。


---


悲劇は突然やってきた。


---


「七災将の総攻撃です」


---


ルナは拳を握った。


---


「王都が襲われました」


---


「仲間たちは民を守るために戦いました」


---


「最後まで……」


---


声が震える。


---


「最後まで戦ったんです」


---


最初に倒れたのはセシリアだった。


---


敵の大軍勢を食い止めるため、一人で前線に立った。


---


撤退命令が出ても下がらなかった。


---


なぜなら。


---


後ろに守るべき人たちがいたから。


---


彼女は最後まで騎士だった。


---


最後まで誰かを守ろうとしていた。


---


そして――帰ってこなかった。


---


修司は目を閉じた。


---


頭の中に浮かぶ。


---


真面目で。


不器用で。


規則ばかり口にしていた女性。


---


「規則です!」


---


そう言っていた姿が浮かぶ。


---


胸が痛かった。


---


ルナは続ける。


---


次に倒れたのはエルナだった。


---


仲間たちを逃がすため。


---


最後の魔法を使った。


---


命を削る禁術。


---


彼女は笑っていたという。


---


『修司さんなら大丈夫ですよ』


---


そう言い残して。


---


二度と目を開けなかった。


---


エルナ本人が息を呑む。


---


未来の自分の最期。


---


聞きたくない。


---


でも目を逸らせなかった。


---


そして――。


---


ルナはとうとう泣き崩れた。


---


「ミーナも……」


---


声にならない。


---


「ミーナも死にました……」


---


ミーナは何も言えなかった。


---


ただ黙ってルナを見ていた。


---


ルナは涙を流しながら続ける。


---


「誰かを守るためでした……」


---


「誰かを助けるためでした……」


---


「ミーナらしい最後でした……」


---


沈黙。


---


風だけが吹いている。


---


誰も言葉を発せない。


---


修司は拳を握った。


---


苦しかった。


---


胸が張り裂けそうだった。


---


想像したくなかった。


---


仲間がいない世界など。


---


考えたくもなかった。


---


ルナは涙を拭った。


---


そして静かに言った。


---


「その日からです」


---


「修司さんが変わったのは」


---


その言葉に全員が顔を上げる。


---


「誰も信じなくなりました」


---


「誰も失いたくなくなったんです」


---


「だから……」


---


ルナは震えながら言った。


---


「世界を支配しようとしました」


---


「二度と誰も失わないために」


---


修司は目を閉じた。


---


理解できてしまった。


---


もし本当に仲間を失ったら。


---


もし大切な人が全員いなくなったら。


---


自分はどうなるのか。


---


想像するだけで苦しかった。


---


その時。


---


ぽん。


---


肩を叩かれる。


---


振り返ると。


---


ミーナだった。


---


いつもの笑顔。


---


「難しいことは分からない」


---


そう言って笑う。


---


「でもさ」


---


「私は今ここにいるぞ」


---


修司は目を見開く。


---


エルナも笑った。


---


「私もいます」


---


セシリアも頷く。


---


「まだ誰も失われていません」


---


ルナも涙を拭う。


---


みんなそこにいた。


---


生きていた。


---


笑っていた。


---


未来ではない。


---


今だ。


---


修司は仲間たちを見回した。


---


そして。


---


ゆっくり笑った。


---


「そうだな」


---


未来はまだ決まっていない。


---


未来は変えられる。


---


挑戦する前から諦める理由なんてない。


---


五十歳になってから異世界に来た。


---


そこから人生が変わった。


---


なら。


---


未来だって変えられる。


---


修司は空を見上げた。


---


夕焼けの向こう。


---


遥か彼方に黒い塔が見える。


---


その先には未来の自分がいる。


---


世界を滅ぼした男。


---


黒塔の王。


---


だが。


---


修司は静かに宣言した。


---


「俺は魔王にならない」


---


仲間たちが顔を上げる。


---


「絶対に」


---


拳を握る。


---


「仲間も守る」


---


「未来も守る」


---


「世界も守る」


---


そして。


---


力強く続けた。


---


「未来の俺も救う」


---


その言葉に。


---


ルナは再び涙を流した。


---


だが今度は悲しい涙ではなかった。


---


希望の涙だった。


---


遠く離れた黒い塔。


---


最上階。


---


巨大な玉座。


---


そこに座る男が静かに目を開く。


---


未来の坂本修司。


---


黒塔の王。


---


彼は窓の外を見つめながら、小さく笑った。


---


「救う、か……」


---


その笑顔はどこか寂しかった。


---


そして。


---


どこか今の修司によく似ていた。


---


物語は新たな章へ進む。


---


未来を変える戦い。


---


未来の自分を救う旅。


---


そして。


---


仲間たちと共に歩む、本当の運命の物語が始まろうとしていた――。


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