冒険者ギルド、食事
そんな葛藤がありながらも、街へとついたクロムたちは、早速冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドと書かれた看板を見て、クロムは懐かしさすら感じていた。
なにせ、20年間通い詰めていた場所だ。数か月もの間行かなかっただけなのに、懐かしさを感じるのも仕方がない。
(久しぶりだな)
「久しぶり」
「ああ、本当に」
「クロムも久しぶりだったね」
「ああ」
「ん、早く入って、食事」
「だな」
2人が中に入ると、今まで騒がしかった冒険者ギルドが一瞬で静かになり、今度はざわざわと小声がそこら中から聞こえてきた。
「獣人の姫キーじゃねえか?」
「ああ、久しぶりに顔を見た」
「ねえ、隣の人って」
「まさか、あの男か?」
キュコリルと、クロムの姿を見て、感想を述べるもの。
冒険者ギルドに足を運ばないだけで、街に来ていたキュコリルたちの噂は冒険者ギルドで流れていたのだ。
噂の2人が来れば、盛り上がるのも無理はない。なにせ、この世は娯楽が少ないから。
「はは……冗談だろ」
「あの男、相当できるぞ」
「ありゃ、化け物だ」
キュコリルの態度から察して、クロムの力に驚愕するもの。
冒険者たちは、色々な姿を見せた。
キュコリルは、この街では有名で、強く美しい獣人の姫と呼ばれている。
惚れた男も数多く、告白しては断られていた。
断り文句は決まってこれ。
「私より強い人じゃないと無理。あと、私には好きな人がいる」
誰だそいつはと躍起になって探したものもいるが、結局は見つからず、きっと獣人の国にでもいるのだろうと、そこで話は終わっていた。
しかし、いざ久しぶりに顔を見れば、明らかにクロムに惚れている姿を見せるキュコリル。
大きくふわふわの尻尾を巻きつける行為は、その獣人がその人に惚れている証。自分の匂いを付けて、他の獣人に分かるように取ったら殺すというサインでもある。
さらにさらに、キュコリルだけではなく、女獣人は自分より強い者に惚れこむのは周知の事実。
強さの証明は、相手の戦いを見るか、実際に戦うかの2択。
相手の力量を把握できる獣人に嘘を付くことはできないので、クロムが強いということをキュコリル自ら証明しているものであった。
まあ、ある程度実力のある冒険者であれば、クロムを一目見れば分かることではあるが、実際にキュコリルが自分より強いものを見つけたのだと思うと、恐怖で身が竦むというものだろう。
「姫とは、キュコリルのことか?」
「ん、知らない。興味ないから」
「そうか」
まあ、他人の評価なんて気にしない2人には、他の冒険者がどう思うかなんて知ったことではないのだ。
「あら、キー様。お久しぶりですね」
キュコリルは、街の人間にキーと名乗っている。
獣人あるあるなのだが、獣人は家族や心から愛している人、愛せる人にしか、本名を名乗らない。
獣人にとって、与えられた名はそれくらい大切なものだから。
クロムもキュコリルに直接その話を聞いた。
それではなぜ本名を名乗ったのかとクロムはキュコリルに聞いたが、キュコリルはまだ内緒と言って、クロムには語らなかった。
「やほ」
キュコリルの顔なじみらしく親し気にキュコリルと話す受付嬢。
仲は良さそうだが、教えてないんだなとクロムは改めて思うのであった。
「あら」
受付嬢がクロムのほうに視線を向けてると、なぜか既視感を感じた。
だが、受付嬢は思い出せなかったので、直接聞くことにした。
「そちらの方は……どこかで」
「ああ、隣街で冒険者をしていたものだ。今日は荷を運びに来た」
(していた、ということは辞めたのね。……どこかで見たような気もするんだけど。
それに、獣人のキー様がぞっこんの相手。相当強いのね。荷物も見えないし、亜空間スキル持ち……うちのギルドに欲しいけど、駄目よね)
クロムの実力を把握して、ちゃっかり勧誘しようとしたが、先ほどの話を聞いて諦めることにした。
キュコリルを怒らせないことのほうが大事だと意識を切り替えた。
「さようでございますか。詮索してしまい、申し訳ございません」
「気にしなくていい。言いたいことも、なんとなく分かる」
「ありがとうございます。それでは、解体品を見せて頂きますか?」
(話しの分かる受付嬢だ)
クロムはそう感心するが、キュコリルの対応はそうと決まっている。
基本的に、キュコリルは依頼を受けない。
面倒な依頼を嫌うキュコリルは、自分が生活するだけの金を稼げればいいからだ。
じいじの伝手もあって、キュコリルはランクで言えば、鳥獣魔級とクロムと同じである。
強制力が働かず、狩った魔物や魔獣を売れるからといった理由で、鳥獣魔級に落ち着いたという流れだ。
本来であれば亜竜級になってほしいところだが、デドデスの森にでる魔獣を定期的に狩ってもらっているので、文句は言えない。それに、キュコリルは魔獣の素材に興味がないので、金だけ払えば最高の素材が手に入るとギルド側は大助かり。
さらにさらに、本来であれば魔獣を討伐しなければ、増えた魔獣が街に降りるという災害も、キュコリルのお陰で防げている。まさに、キュコリル様様なのだ。
まあ、当の本人は自分がしたいように生きているだけなので、ギルド側から尊敬の念をオクラていることを知らないのだが。
そういったわけで、キュコリルの対応は持ってきた素材の買取だけでいいのだ。
「ここじゃ狭い」
「おや、今日は随分狩られたので?」
「ん、最近さぼってたから」
「確かに顔を見ませんでしたね」
「ん、ごめんね」
「いえ、誰にでも休暇は必要でしょう。謝る必要などありませんよ」
「ありがと。広いとこ案内して」
「分かりました。こちらへどうぞ。ミルフィ、一度抜けます。何人か、応援お願いします」
受付嬢のミルフィは、応援を呼んでから、クロムたちと一緒に解体場まで足を運んだ。
解体場に着くと、クロムは出し惜しみなく亜空間スキルを披露して、狩って解体した魔獣の素材と、魔獣からしか取れない魔結晶を解体場に置いた。
それを見たギルド職員たちの目が点となり、ミルフィは急いでアイコンタクトを取り、上司のもとに1人の職員を走らせた。
「これで、全部だな」
「これはまた……150は討伐したようですね」
目算でおおよその数を推測する。
素材はかなりの量だが、魔結晶は魔獣に付き1体のため、約150の大小異なる魔結晶がゴロゴロと地面に置かれているのを見て、ミルフィは、顔をひきつらせた。
「多いね。いつもは多くても5体」
「なら2か月分は取り戻せたな」
「疲れて当然」
「はは、だな。今日は張り切りすぎた」
「ん、2日に1回でいい」
(ぜひ、そうしてください)
ミルフィもぜひそうして欲しいと心で願った。魔結晶は買取金額が高く、これ以上持ってこられてもその場で払える金が底を尽きてしまうのだ。
まあ、今回は払えないと断言している。
なにせ、魔結晶の横には、魔結晶以上に数が多い魔獣の素材が落ちているからだ。
「申し訳ないのですが、魔結晶と素材の半分はお持ち帰りできますか?
ここまでとは思わず、今ご用意できる金貨が不足してしまいます」
「それはすまない。他の冒険者もいるのに配慮が足りてなかった」
「いえ、デドデスの森から街へ魔獣が流れ込んできても困りますので、討伐してくれ感謝いたします」
「ん、どうたまして」
「査定まで時間が掛かりますので、お時間を頂いてもいいでしょうか?」
「その、申し訳ないのだが、金貨1枚だけ貰えないか。食事に払う金も不足しているんだ」
「承知いたしました。では、すぐお持ちしますね」
「感謝する
ミルフィが金貨を取りに受付に戻る。すると、チョンチョンと、キュコリルがクロムの腕に触る。
「どうした、キュコリル」
「普通に人と話せてる。お礼もごめんなさいもできてた」
人と話すことが億劫だと打ち明けていたクロムは、自身の変化に今更ながら驚いた。
はっきり言って、キュコリルと会う前のクロムは、会話ではなく一方的に何かを決めたり、言葉を返すだけだったのだ。
人と普通に会話ができるようになったのも、キュコリルがクロムと会話をしていたことが影響しているだろうと、クロムは考えた。
クロムはむぎゅっとクロムにくっついているキュコリルの頭をやさしく撫でる。
「……確かにな。これも、キュコリルのお陰だ。ありがとう」
「んふ、どうたま~」
キュコリルはクロムに巻きつけた尻尾を、さらにぎゅうぎゅうと締め付けるのであった。
2人は金貨を5枚と銀貨を50枚渡された。
この数だと、かなり時間がかかるそうなので、食事の後に買い物もご一緒にと配慮してくれたらしい。
キュコリルは、とうとう自分で歩きたくなくなったようで、クロムの背中めがけてぴょんと飛んで抱き着く。どうやら、自分の気持ちに折り合いを付けたようで、さらに密着したいという気持ちを優先させたようだ。
「場所は、いつものところでいいか」
「ん、あそこはたくさん出してくれる」
いつものお気に入りの飲食店に直行する2人。
二人のお気に入りの店の名前は、グロンド。
キュコリルがクロムとまだ出会う前、デドデスの森から魔獣が数匹降りてきた際に、グロンドの従業員をキュコリルが守ったのだ。
そこから、キュコリルとロンド、グッドと仲良くなり、キュコリルの席を常に空けておくほど、恩義を感じている。クロムはキュコリルの恩恵にあやかっているという感じ。お店の人もいいと言っているので、クロムはありがたく一緒に食事を頂いている。
大人気店かつお昼過ぎくらいのため、店もかなり混雑しており外には行列ができていた。
「あう、遅くなった」
「大丈夫だ、席を取っておいてもらってるだろ」
「ん、確かに」
「まあ、念のため並んでおいてくれ」
「ん」
クロムは慣れたように、入り口から出てきた店員に話しかける。
その様子をじっと見つめるキュコリルは、耳が少し垂れて、尻尾も下がっていた。
なぜかは分からないが、心が少し寂しい気持ちになってしまうキュコリル。
クロムと会話していた店員は首を振り、列の後方を指さして、軽く頭を下げた。
クロムは店員に片手を上げて、キュコリルのいる場所に戻ってきた。
クロムが戻ると、キュコリルの顔が明るくなった。
「あれ、どうしたの?」
「新人のようだ。名前を言ったが、ここは予約は受け付けてないと言われてしまった」
「ん、ならゆっくり待つ」
「だな」
そういって、列待ちの席に座ると、キュコリルはすぐさまクロムに尻尾を絡めた。
クロムは本来はこれが普通だったことを思い出して、キュコリルとのんびり座って待つ。
(……ん、今日の私は少しおかしい。反省)
キュコリルはクロムと離れただけで、少し寂しい気持ちになっていたことを反省する。目に見える場所にいるにも関わらず、触れていないだけで気が沈んでしまったらしい。すぐに戻ってくると分かっているのに、寂しくなるとは我ながら情けないと反省中。
2人が椅子に座ってから少し経つと、何やら大慌てで先ほどとは違う別の店員が声を掛けてきた。
「キー様、クロム様!!」
「やほー」
「どうも」
「も、もうし」
「俺たちは大丈夫だ。本来はこれが普通だ」
店員が謝ろうとして、即座に言葉を放つクロム。
「いえ、私どもの教育が届いておらず」
「いや、本来はこうして待つべきなんだからな。いつもすまない」
クロムは至極まっとうなことを言っているはずなのに、店員は顔を青ざめながら首を振る。
「いえいえ、滅相もございません。どうぞ、こちらに。すぐにご案内いたします」
「いつもありがと」
店員のあまりの顔の青さに、たまらずキュコリルは感謝の念を伝える。
「いえいえいえいえいえ、こちらこそ、いつも感謝しております。ささ、どうぞ、こちらに」
今度は顔を真っ赤に染めた店員さん。これ以上、店員さんに気苦労を負わせてはいけないと2人は大人しく店員さんについていくことにした。途中、新人さんに頭を下げられた2人は、気にしないでと言葉で伝えてから、席についた。
完全個別の部屋で、クロム曰く、防音魔法まで完備されているらしい。
座る時には椅子まで引いてもらい、席に着けばメニューを広げてもらい、温かい清潔な布と、冷えた水が置かれる。至れり尽くせりの対応である。
店員さんが、出ていくのを確認してから、クロムは呟く。
「俺たちも普通でいいんだがな」
「ん、でもどうせなら、周りを気にせず食べたい」
「まあ、それもそうか」
2人が席について、メニューを決めている最中に、三回ノックの音が響く。
防音と言っても、中の音が聞こえないだけで、外から中に出す音は聞こえる仕様だ。
「失礼いたします。ようこそいらっしゃいました、キー様、クロム様」
「やほ、ロンド」
「今日もよろしく頼む」
ダンディな壮年の男性ロンドはキュコリルとクロムがお気に入りの飲食店の支配人である。
料理長とも仲が良く、簡単で美味しく日持ちする料理のレシピを教えてもらったりと、かなりお世話になっているお店だ。
軽い挨拶を済ませてから、ロンドはすぐに先ほどの出来事を謝罪する。
クロムもキュコリルも先ほどの件ならまったく気にしてないことを説明してから、さっそく料理の注文をした。
「今日はね、これと、これと、これがいい」
「かしこまりました」
「いつもすまない。時間は気にしないでくれ。いつも無茶を言ってるのはこちらだ」
「ご配慮感謝いたします、それでは軽いお食事をお先にお楽しみください」
そういって、何品か料理を出していく、配膳人たち。
キュコリルは目を輝かせて、そんなキュコリルを見て幸せそうに笑うクロム、幸せに満ちた部屋のできあがりである。
パクパクパクと嬉しそうに頬張るキュコリルと、淡々とだがしっかりと味わって食べるクロム。
「野菜おいしい」
「そうだな、ここは何を食べてもうまいからな」
「こちら、支配人からのサービスのドリンクです。お口に合えば、是非と」
どうやら先ほどの謝罪の品だと勘づいたクロムは、申し訳なさそうにしながらも、グラスに高級なウイスキーを注いでもらうのであった。せっかくのご好意を無駄にしてはいけないと言い訳して。
「うん、うまい」
グラスから香るスパイシーかつフルールのような甘い風味を楽しみながら、クロムは密かに思い出していた。
(マスターにも、おやっさんにも謝らないとな)
あの2人がクロムを気にかけてくれたお陰で、クロムは今を生きているのだと実感している。
下手な宿屋であれば、餓死しても放置ということもあるのだから。
キュコリルはクロムが呑んでいたお酒を見るも、興味がないのか料理を味わって食べ進める。
「お酒、今日はいい。今日は料理の日」
「ああ、好きに食べよう」
「ん!!」
しばらくすると、色とりどりの大きなソーセージ、人の胴体くらいある巨大な蟹の挟み一個分、そして最後に分厚いステーキが順番に運ばれてきた。
「どれも、圧巻」
「ああ、いつもながら、素晴らしい料理だ」
「味もグ! 運動したら後の食事は至高」
どの料理が運ばれてきても、キュコリルは目を輝かせて、料理を大事に味わい噛みしめる。
ゆっくりと食事を楽しんで、完全に平らげたあとは、デザート。ここまでが、クロムたちの食事の流れである。
キュコリルは満足したのか、お腹をポンポン抑えて、幸せそうな笑みを浮かべている。
デザートが終わると、お茶が出されて、支配人のロンドと料理長が顔を出す。
「おちびに、クロム、今日はどうだったよ」
「最高、幸せ、いうことなし」
「ああ、いうことなしに美味かった。いつも、感謝しているグッド」
「へへ、いいってことよ」
グロンドの料理長であるグッドは、自慢の料理を褒められて嬉しそうだ。
「いつでも声を掛けてくださいね。我々はいつでも、あなた方のご来店をお待ちしております」
「俺まですまないな」
いつも来店しているが、やはりどこか気にしているクロムに対して、支配人のロンドはにっこりと笑う。
「謝らないでください。クロム様がいることで、キュコリル様がご来店してくれるのです。キュコリル様1人の時は、たまにしか顔を出していただけなかったのが、今では足蹴なく通ってくださるのですから。我々も感謝しているのです」
「そういってくれると助かる。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「いつでも来てくれよ!お前たち専用の料理を作れるのも楽しみなんだからよ!」
屈託なく笑うグッドにつられて、クロムも笑顔を見せるのであった。
(か、かわいい)
そんなクロムを見て、キュコリルは頬を赤く染め、またここに来ようと思うのであった。




