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なぁ?ウィリアムズ  作者: サミシ・ガリー
15/17

14.医師と処方 ダレカ

遅れましてすみません!

医師と処方



 ダレカはジャックの体のまま目的地を目指した。これだから友達が出来ない。そうダレカはため息をつきながら石ころを蹴飛ばした。

 街の中の喧騒は落ち着いてきた。お昼休憩は終わったからだ。

 ダレカが進んでいた道のりは工場へも繋がっていたため、周りの人々からもため息が聞こえる。


「誰がこんな工場作ったんだ、ったく」


「土いじりよりかはマシなんだ、仕方がない」


 そうダレカの斜め前を歩いている二人の男がぼやいていた。

 そう、稼ぎはいいんだ、文句を言うな。ダレカは帰る場所があるであろう二人の背中をにらみつけた。どうしたって稼げない、生きていけない人間はいくらでもいる、どうしてそれが見えないんだ。ダレカは心の中でぼやく。


 工場へ行く人々とは反対の方向へダレカは進んだ。辺りの景色には街の中でも金持ちが住む大きな家が増え始める。それらは隣の家と家に十分過ぎる広さがあり、庭は青々としていて、まるで隣の芝よりも綺麗だと主張している様だった。

 その内の一つの家から四人の家族が出て来た。父は上等な装いを身にまとい、立派な髭がちょんっと上を向いていた。婦人の方は日傘をさしてドレスを着ていた。子供の装いは大人の格好のミニチュアの様で小ぎれいに整えられた髪はどこか得意げに揺れている。そうして彼らは界隈でもまだ珍しい車に乗り込み、微笑みながらどこかへ行ってしまった。

 ダレカはそれを見て、分からなくなっていた。

 同じ街に住みながら、この差は一体何なんだろう。俺、ジャックは貧しく、あの得意げな子供たちは裕福だ。どうしてだ? それは親が貧しいか、お金持ちかで変わるんだ。じゃあ、俺は貧しいのは親が貧しいからか、いや、俺は捨てられたんだ。どうして? ああ、ダメだ、もう考えるな、俺は植物なんだ人間とは違う。植物だから俺は捨てられた。そして、植物だから一人でも生きていけるんだ。ダレカはそう駆け巡る思いを振り払う様に歩みを早めた。


 ダレカは布の巻かれた裸足でなんとか目的地の病院までたどり着いた。ダレカは、ここまでの道のりは肉屋の親父の記憶にあったのを頼りにした。そこはいくつも部屋のある大きな病院だった。ダレカは何も考えずに街で一番の病院に入った。薬品か何かの匂いなのか、独特な匂いにダレカは受付には体の弱った老人や、顔色の悪い人が多くいた。何も考えずに受付まで歩いて行くと、受付のダルそうな女性が声を掛けて来た。


「今日はどのような理由で?」


「今日は……」


 ダレカは計画も無く病院に入ってしまった事を今更後悔していた。

 まずい、言い訳が出来るきっかけはないか、そうダレカは素早く辺りを見渡した。死んでるかの様に動かない、腰のひん曲がった老人。ケンカで折られた鼻を痛そうにさする青年。咳をする子供に寄り添う親。貧乏ゆすりを止めない健康そうな青年。

 そこでダレカはたとして、受付の女性に向き合った。


「病気の母がこちらにいると聞きまして」


「そうですか。お名前、よろしいですか?」


「名前……。パ、パトリシアです」


 ダレカは思わずジャックの母の名前を口にしてしまった。苦い顔で受付の女性の言葉を待っていると、

「一○二号室のパトリシア・クーパーさんですね。随分と年を召されていますが?」


「え? あ、いや、晩産だったみたいで」ダレカはしどろもどろになりながら何とか答えた。


 逃げる様にして受付から離れてダレカは病院の医師を探した。

 医師の部屋は意外とすぐに見つかった。足の不自由な患者の事を見越しての事なのだろう。ダレカはそんな事を思いながらその部屋を通り過ぎた。それは体を『変える』為だった。

 角で看護婦を待ちかまえてわざと手に触れ、足早にそこから離れた。病院を一周する形で医務室にたどり着いた。先ほど『貰った』看護師の体で部屋に入った。

 先生は奥に居るのか、診察台には居なかったので、ダレカは隣の部屋へと繋がる部屋へ進んだ。先生はコーヒーを淹れていたのか、背を向けたまま、口を開いた。


「ああ、さっきの患者のカルテ持って行って」


 ダレカははーい、と生返事で返して、そばにあった消毒液に浸っていたメスを手に持った。そしてすばやく医師の背後まで迫り、きゃしゃな手で医師の首ねっこを掴んでメスを喉に押し当てた。


「うっ、何をっ」


「黙れ、動くな」


 ダレカは『貰った』医師の声で短くそう言った。

 医師の首を掴む手はすでに男の手になっていた。医師はコーヒーのカップを片手に両手を上げてダレカの指示に従った。


「質問だけに答えろ、お前はこの街で一番と謳われている医師ジョンに違いないな」


「い、いや、そんなことは」


「ふん、お前はそうは思っていない様だけどな。まぁいい、最近の患者はペストではない、肺炎の患者が多い様だが、治すことは出来ないのか。何か薬は処方している様だが」


「な、なにを? か、金目のものはここにはないぞ」


「質問に答えろ。俺はあんたに似て短気なんだ」


「わ、分かった。わ、私もここ数年その事を研究しているが、常時熱が出る事や咳が出る事位しか分からないのだ。だから処方できるのは熱を抑える薬だけだ。医師の間では不治の病と呼ばれている。そ、それがどうかしたのか?」


「……そうだな。しかし、どうして薬は出来ない? 数年も研究しているなら出来てもいいだろう」


「い、いや、特効薬を作る事は非常に難しい事なのだ。一介の医者が出来る事ではない。それに何十年と研究をしないと、薬は」


「作れないのか」


「あ、ああ。少なくとも現代医学では難しいだろう」


「……何か手はないのか」


「現段階では何とも……」


「何かないのか!」ダレカは医師ジョンの喉にメスを押し当てる。


「ヒッ、そ、そう言えば、この病は農村地域では発症が少ないと聞いたっ、そこへ連れて行けば病状は収まるかも知れないっ」


「……そうらしいな」ダレカはそう言ってメスを首に押し付ける力を抜いて、

「銃も持っている。こちらを振り返らずに十分はそのままでいろ」


 ダレカはそう言って首を掴んでいた手を緩め、そのまま医師の腰に指を突き立てた。すると医師はビクッと体を震わせ、汗を垂れ流した。その流れでダレカは脅迫する様にメスで首周りを舐めて一歩後ろに下がった。そしてダレカは腰に当てていた人差し指をゆっくりと離して後退した。


「そ、そんな事を知ってどうする」


「お前は何も知らなくていい、俺はいつでも見ているからな。名実ともに名医になれ。少しでも手を抜いた処方をしたら……」


「あ、ああ、分かった!」


 ダレカはふん、と鼻を鳴らして布を巻いただけの素足でひたひたと医務室を後にした。メスを返し忘れたダレカは見られてはまずいと思い、メスをポケットに入れた。何人かとすれ違って、そのまま受付を通り過ぎようとしたが、そこで、


「あ、先生、どこに行かれるのです?」


「外の空気を吸ってくるよ」

 当然の様なフリをしてダレカは病院を出ようとしたが、またもや引き留められた。


「ああ、これは先生。腰がこれまた痛くてですね」声を掛けて来たのは、死んでいた様に動かなかった老人だった。


「これはこれは、ご老人。大丈夫ですよ。先生はちゃんと見てくださるでしょう。ああ、それにそこの青年。気をもまなくとも万事、お任せして下さいね」

 ダレカは不安そうにしていた青年にも声を掛け、満面の笑顔でそう言った。









先週更新できなかったので、出来れば6月5日にまた更新します。次々話?は6月10日に更新します。

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