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なぁ?ウィリアムズ  作者: サミシ・ガリー
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12.目標と行動 ダレカ

目標と行動



 ダレカは目覚めると腐って今にも落ちそうな天井が目に入った。

 そこは拠点の一つの廃墟だった。壁や窓から入ってくる光で午後である事をダレカは知った。見渡してみると先生がいつもの埃臭いソファに寝ていた。

 ダレカは自分の体の具合が良くなっている事に驚いて自分の手を見た。それは鍵を開けるのが上手な先生の手だった。どうやらあの後、先生がここまで運んでくれた様だった。ダレカは床で胡坐をかくとその音で先生は目覚めたのかこちらをひたと見た。


「……ああ、ダレカか、驚かすなよ。てっきり俺に惚れる所だったぜ」

 先生はそう言いながらソファーに座りなおした。


「先生趣味悪いですね。ネズミにも逃げられるほど臭い男が好きだったとは僕も驚きです」


「はっ、ネズミにかじられるよかマシさ。にしてもお前昨日どうしたんだ?ありゃ社長の娘か?合図もねぇし、お前が俺を呼ばなきゃあのままトンズラこいてる所だったぞ」


 先生は鼻をほじりながら、なんともない様子で昨日の出来事を聞いてきた。

 ダレカは先生に全てを話すかどうか迷った。なにせ先生は人情話は大の嫌いだったのだ。

 出会った頃、スラム街でダレカが先生に「盗んだ金はどうするんですか?」と聞いた所、「なんだお前、そこらへんの死にかけにでも情けを掛けるとでも思ったか? ばっきゃろう。そんな事すんならドブに捨ててやるよ」そう言ったのだ。ダレカは話すべき内容と話さない内容を決めて話をした。


「じゃあなんだ、そのジュディーの所為で俺たちの金が無くなっちまったってことか。ハッ、んなガキさっさと殺しちまえば良かったものを、社長ってのは頭がいいんじゃねぇのかよ。ガキなんていくらでもこしらえればいいってのによ!」


 くだらねぇ、と先生はこぼして再びソファに寝転んでしまった。ダレカはそんな事だろうと先生の言葉に怒ることはなかった。

 しかし、先生に話している時にふつふつと湧き上がる思いに気付いた。そうして先生に外出すると告げると、先生はひらひらと手を振って寝始めてしまった。


 ダレカは先生の格好のままスラム街を歩き始めた。すれ違う幾人かに声を掛けられるも全て無視してダレカは市街地を目指す。しばらく歩いて行くと、道を歩く人々の格好がマシな服に代わっていった。

 その辺りでダレカは角を曲がってくる男に肩をぶつけて手に触れ、速足でそこから離れた。後ろから怒号が飛んでくるが、肩をぶつけた先生の姿はなく、その怒号は小さな疑問に変わった。


 ダレカは自分の姿を確認することなく、ずんずんと町の奥へ進んでいく。

 丁度お昼時だったのか仕事で疲れた人々がにぎわっていた。売り子は走り回り、遠くで臭う糞尿の臭いとお茶の匂いが混ざって吐き気がした。


 ダレカは大きな腹を揺らしながらその中をかき分けていく。

 そこで子供のスリを見かけた。まだ未熟なのか、傍目から見ても人の財布を狙っている様なぎこちない仕草で行きかう人々を見ていた。その子が上等なスーツに身を包んで、立派な髭を蓄えた紳士に近づいて行く。

 放っておけなかったダレカはそれを阻む形で少年の肩に大きな腹をぶつけた。


「なにすんだよ、おっさん!」


「おい、ちょっとこっち来い」


 ダレカは少年の袖を引っ張って路地に彼を連れていこうとした。しかしその少年はバッと手を払いのけてダレカを見た。ダレカはその視線を無視して一人で路地へ行き、壁にもたれて少年を待った。

 少年はダレカの行動に疑問を持ちながらも好奇心に勝てなかったのか、路地に入ってきた。ダレカは片目だけ開けて少年を見て話し始める。


「いいか小僧、ありゃダメだ。立ち位置も目立ち過ぎだし、何より自然じゃない。それに狙う相手がいけない」


 ダレカは先生の口調を真似して少年にそう言ったが、上手く行っている気はしなかった。それを聞いた少年はビックリして、どろもどろになりながら話し始めた。


「な、なんの話だよ、おっさん」


「はっ、素直じゃないなガキの癖して。俺は助けてやったんだぞ? 邪魔したとでも思ったか? ああいう金持ちはケチな連中が多いんだ。つまりお前が上手く逃げおおせたってどこまでも追ってくるんだ。捕まったら殺されるか貴重な労働力になるぞ? 中には変な性癖持ちだっている。狙うなら裕福をひけらかさない中流階級にするんだな」


「お、俺はガキじゃねぇ! ジャックだ。それにおっさん、肉屋の親父じゃねぇのか? なんなんだよ急に、どうなってんだ?」


 ジャックは怯えた様に後ずさりしてダレカから距離を取った。ダレカは、この体は肉屋の親父のだったか、と苦笑いして話を続けた。


「ただの肉屋の親父さ、俺んとこでは盗みはすんなよ。それにな、ジャック、お前はガキなんだからガキである事を利用しろ。でもな、働いた方がリスクはないぞ? どうしてだ?」


「わ、わかったよ。でも親父もお袋ももう居ないんだ。そんな俺は働いてもほとんど稼ぎはなかったんだ。もう残ってんのはそれ位だろ!」


「……そうか、それなら納得だな」


 ダレカは自分と似た境遇の少年の言い分に納得して、うんうんと何度も頷いた。ジャックは憐れむでもないその意外な反応に興味を持ったのか、ダレカに聞いた。


「おっさん、盗みを教えてくれよ。それに何でそんなに色々知ってるんだ? ただの肉屋じゃないのか。あ、まさかおっさん、人肉売ってんじゃねぇだろうな……?」ジャックの虹の様に変わる表情に、からかいたくなったダレカは悪魔の様な声で迫った。


「ぐっぐっぐ、ジャックよ。俺の店で働いてみねえか? 給料はいいぞ? その後、その金を使えるかどうかは別だけどな。ぐっぐっぐ」


「や、やめてくれよおやっさん、俺、誰にも言わねぇからさ。盗みもやらねえよ、だから」


「ぐふっくっくっく、ジャック、お前やっぱガキだな」


 あはは、と笑いを堪えられ無くなったダレカはジャックをバカにする。からかわれた事に気付いたジャックは顔を赤らめて「このぉ」と手でダレカを押した。ジャックの手はダレカの大きな腹に触れた。

 次の瞬間、ダレカの体はジャックと同じ姿をしていた。ジャックの手はダレカの顔辺りに来ていた。ダレカはその目の前の動かない手をゆっくり退けると、そこには白い顔をしたジャックが固まっていた。


「……ばぁっ、驚いた?」


 ジャックはビクッと体を動かすだけで返事すらしない。今にも気を失いそうなほどジャックの顔には血が通っていなかった。

 ダレカは低くなった視界を確かめる様に周りを見渡した。そして、しょうがないな、と言って言葉を続けた。


「ったく、お前の所為だからな、そんなに驚くなよ。夢だから安心しなよ。それと肉屋の親父に頼み込んでみな、雇ってくれるさ。ああ、あとお前、ガキの癖して食えない奴だな」


 そうダレカは言って、ジャックの背中をぽんぽん、と叩いて路地の奥へと消えた。

 そしてジャックはズボンが濡れていることにも気付かずに、

「ドッペルゲンガーだ」


 薄暗い路地にはその言葉だけが響いた。


次の更新は五月二十日です。

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