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なぁ?ウィリアムズ  作者: サミシ・ガリー
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11.教養と事件 ダレカ

教養と事件



 ダレカは目の前の少女の記憶が脳に入り込んで来る感覚に襲われていた。同時に彼女の体の調子が同調する。細った体に走る悪寒と熱、立っていることすらも重労働に感じ、呼吸する度に肺が焼かれる痛みが続き、咳が止まらない。

 病人の体を『貰った』ことは初めてで、風邪すら引いたことのなかったダレカは死を垣間見た。そのさなか、彼女の記憶が当然の事となり始める。

 幼馴染のヨアちゃんとはお父さんが工場の社長になる時以来会っていない事、お母さんは料理が嫌いでじゃがいもはいつも硬い事、お医者さんと両親が話している事を聞いてしまった事、工場の近くに住み始めて咳がひどくなり、もう数年が経つ事。

 幼少の頃から今の今までの記憶がパチリとダレカの記憶と一つになった。


 そして、自分を見るかのように彼女を憐れみを込めて見つめ返す。ああ、ジュディー、なんて私はかわいそうなの、余命があと一カ月だなんて、私は死にたくない。そうダレカは彼女に同情すると同時にジュディーである自分にも同情した。


 何とか記憶を呑み込んだダレカは自分を取り戻した。

 この家に泥棒としてきたのだ、決して妖精なんかじゃない。ダレカはそう思ったものの、同時にこの家にはお金があるかどうか分からなかった。ジュディーはここ数年この部屋から出ていないのだ。また、ダレカは全ては分からなかった。何時もの事だ。本人にとって覚えていないことや、重要でないことは分からないのだ。そして、ジュディーの記憶の中には目的の記憶はなかった。ダレカがジュディーの部屋に居る事に再認識した所でジュディーが口を開いた。


「妖精さん? 私が? これは夢なの?」


「違うわ。私はあなたの姿を借りた妖精よ。そして夢の中」


 ダレカは良く口が回るものだ、と思いながらも話を合わせた。

 ままごとをしたことなかったダレカにとっては緊張があった。しかし同時に同年代の子と会話できるこの状況に感謝していた。普通の人間の体ではないため、普通に遊ぶこともできなかった。手にでも触れてしまえばそれでバケモノ扱いだ。ダレカは先ほどより小さな口を動かしながら思考した。


「妖精さん、夢でもいいの。私の病気を治してくれるの? この町一番のお医者さんにも匙を投げられたのよ」

 ジュディーはそう言って喉がちぎれるのではないか、と心配になるほど強い咳をする。


「大丈夫よジュディーあなたは一カ月でなんか死なないわ。そうならないためにも一つ私に教えてほしいことがあるの」


 ダレカは心が痛むことを承知でジュディーに聞いた。この町に死にそうな子供なんていくらでもいる、そこらへんの道端で死んでく子供たちはいくらでも見て来た。それに比べればベットの上で死ねるジュディーは十分幸せだろう、そうダレカは自分に言い聞かせた。しかしジュディーの苦しみを知ってしまったダレカは思考に反比例する様に悲しみが大きくなっていった。


「いいわ! 妖精の願い事だもの。なんだって教えてあげる!」


「じゃあ、お父さんとお母さんの大切な物置きって分かる?教えてくれると助かるのだけれど」


「大切な物置き?」


「そう、何かお金になりそうな物。私、それがないと困っちゃうの」

 そうダレカが言うと、ジュディーは黙りこくってしまった。ダレカはその沈黙を待っていると、ジュディーは決心したように口を開いた。


「私の所為で、お母さんとお父さんは大事な物を売ってしまったの、だから、この家にはお金になりそうな物はもうないの。結婚指輪だってウエディングドレスだって時計もよ! 私が早く死ねば良かったのに、お母さんとお父さんは私が良くなるようにって、神様が直してくれるって。でも一向に良くなんてならない、ねぇ妖精さん、私生きてちゃいけないのかな?」


 ジュディーは嗚咽を上げて、漏れる言葉に歯止めが利かなくなった様に話した。ジュディーの矛盾する言葉は心の葛藤を小さな体に内包していたことをダレカは知った。ダレカは誰かの記憶を蓄積した事で、大人になった気分でいた。実際に大人になれるのだからダレカは心を学ぶ機会を自然と忌避していた。ダレカは他人の記憶の感情までもは知り得なかったのだ。


「……ごめんなさい。私、あなたなのに何も分かってなかった」


 ダレカはジュディーの体の熱なのか悪寒なのか、それとも何か感じたこともない苦しさでなのか、胸の辺りがモヤモヤとして絡まり始めた。


 目の前の現実から逃げ出したくなったダレカは後ずさりしてドアノブを手で探る。目の前のジュディーが何か言っている、しかしダレカの耳には何も響いてはいなかった。

 そして探っていた手がドアノブを見つけると、ダレカはその部屋から飛び出して裏口まで走った。ジュディーの体は軽いのにとっても重く、知らない歩幅はダレカを転ばせた。

 五回目の冬、良く感じていた、頬を伝う感触が頬を濡らす。

 ダレカはその場から逃げ出したい一心でキッチンを抜けて裏口のドアを叩き開けた。


 壁に背を預けていた先生が飛び上がって、ダレカを見ると、身を翻して走り始めた。ダレカは手を伸ばして先生を呼んだ。

 そこからの事をダレカは覚えていない。

 



読んで下さってありがとうございます。今回短かったので明日また更新します。

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