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【完結】家族に愛されなかった怪物令嬢は、かわいい義息のために最強の継母になります  作者: 当麻リコ
一章 怪物令嬢は打たれ強い

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6.可愛い(?)義息子

会話が途切れたタイミングで使用人が来て、顔合わせは中断された。


「これから王宮に向かわねばならなくなった。出て行ってくれ」


面倒そうに言われ、素直に退室する。


「こういうことはよくあるのかしら」


廊下を歩きながら、先導するハインツに尋ねる。


「王宮への呼び出しでしょうか? ええ、旦那様はあちこちから頼られておりますゆえ」


「へぇ、やはり優秀な方なのね」


ありがたいことに私の部屋はすでに用意されていたらしい。

呑気な返事をしつつハインツの案内についていく。


「クロイツ領は王都に近いこともあり、社交シーズンに関係なく参じております」


「そんなにお忙しいなら、王都にお屋敷を持てばよろしいのでは?」


あるいは、それだけ重用されている宰相なら、王宮に居室を用意してもらえるのではないのか。


単純に疑問で軽い気持ちで問うと、ハインツがキラリと目を光らせた。

何か警戒させてしまったらしい。


「……ここには坊っちゃまがいらっしゃいますので」


「ご子息ごと連れていくのではダメなの?」


でも残念ながらなんの企みもないので、気にせず聞く。

それでグランドール家になんらかの容疑がかかるなら、それはそれで悪くない。


私が自由に動けば動くほど、家族の不利に働く。


なにそれ最高じゃない?


「うふっ」


思わず漏れた笑い声に、ハインツは片眉を上げたが、何も言わなかった。

これも彼の目には怪しく映ってしまったかもしれない。


「リアム坊っちゃまは繊細な方でして……王都は騒がしいところですから」


「自領で静かに過ごさせてあげたいのね」


どこまで情報を明かしていいのか迷って言い淀むハインツに、私なりに納得してそう結論づける。


ならアレクシスはやはり、そう悪い人間ではなさそうだ。

息子を大事にしているのだから。


そんな大事な息子がいるのに私を放置していいのかとも思うけれど、たかが小娘一人、ハインツに監視させておけば問題ないと踏んだに違いない。

まさかその気になれば一瞬でその監視を撒くことができる規格外の小娘だなんて、思いもせずに。


あるいはわざと泳がせて、何かボロを出すのを待っているのかもしれない。


どちらにせよ、家族の一員とみなされなかった私だ。

グランドール家の企みなど知らされておらず、探られて痛い腹もない。


自由気ままに泳がせてもらうとしよう。


「こちらが奥様のお部屋でございます」


三階の奥まった場所でようやく足を止め、ハインツが振り返る。


「他のお荷物はいつ頃届く予定でしょうか?」


「他に荷物はないわ。案内してくれてありがとう」


「ええ⁉︎」


驚くハインツの手から持参したトランクを受け取り、軽やかな足取りで部屋に入る。


「シンプルで素敵! 本当にこの部屋を使っていいの⁉︎」


中を見るなり、思わず歓声を上げてしまう。


グランドール邸は私の部屋と反省室を除き、キラキラした装飾品だらけだった。

ここもそうなら落ち着かないなと不安だったけれど、いらぬ心配だったようだ。


派手な柄や貴金属はなく、かといって安物が並んでいるわけでもない。

落ち着いた色調とどっしりした木の家具で品良くまとめられた室内は、壊れてもいいものだけで構成された私の部屋よりずっといい。


「も、もちろんですとも。足りないものがございましたら、なんなりとお申し付けを」


戸惑ったようにハインツが提案してくれる。


「ありがとう。でもここにあるもので十分よ。それにホラ、使い込み禁止なのでしょう?」


意地悪く笑いながら言うと、ハインツが面食らったように言葉を詰まらせた後で苦笑した。


「生活に必要なものでしたら問題ありません」


表情を緩めてハインツが優しく言う。


監視者だけど、悪い人ではなさそう。


「そう? 覚えておくわ」


嬉しくなって素直に笑うと、ハインツも同じように笑ってくれた。


◇◇◇


「こちらがサロンでございます。お客様をご招待なさる際はご相談ください」


自室の細々とした説明を終えた後、ハインツが屋敷内の案内をしてくれることになった。


「さっきの応接室とは随分雰囲気が違うのね」


アレクシスと対面した応接室は、シンプルで落ち着いた雰囲気だった。

けれどこのお茶会用の部屋は、一目でお金がかかっていると分かる豪奢なもので埋め尽くされている。


見栄っ張りのフィオナが他の令嬢を招待するとき、屋敷中の高級品をかき集めていたのが想起されて少し嫌な気分になる。


お母様に手伝ってあげなさいと厳命され、大きなテーブルだろうが食器棚だろうが、抱えたまま屋敷の端から端まで走らされたっけ。


「こちらはその、……奥様のお好きに変えていただいて大丈夫ですので」


言いづらそうなハインツを見て、そうか、この部屋は前の奥様の趣味なのねと気づく。


「お気遣いありがとう。でも私はそういうのよく分からないから、このままでいいわ」


鈍いフリで言うと、ハインツはホッとして「ではお次はクローゼットをご案内いたします」とすぐに切り替えた。


使用人たちには私の来訪がすでに知れ渡っているらしく、すれ違うたび恭しく頭を下げられた。

私が疑わしい人間だということは、ハインツ以外には伏せられているようだ。

彼らは緊張した表情だが、疑惑の目を向けてはこない。


余計な仕事を増やして、日常業務に支障をきたさないようにだろうか。

常に屋敷中の人間に監視されるわけではないというのはありがたい。


「本当に広いお屋敷ね」


「ええ、歴が浅い使用人など、よく迷子になっておりますよ」


ふふふ、とハインツが笑う。


彼も自分の仕事で忙しいだろうに、私が関わる場所を丁寧に案内してくれる。

けれど私の部屋と対角ほどに離れている一角は避けている。


きっとそこが、件のリアム坊ちゃんとやらの居住区画なのだろう。


自領に閉じこもるくらい繊細な子なら、リアム自身、きっと父親の新しい妻なんて会いたくないに違いない。

でも別にそれで構わない。

この結婚も、子供の存在も、私自身が望んだものではないのだから。


ふと、少し離れた所から足音が聞こえてきた。

絨毯にかき消えるような軽い足音だ。


ハインツはまだ気づいていない。

なら私も気づかないフリをするべきか。


「おい! おまえ!」


迷っていると、鋭い声が発された。


今気づいたとばかりにハインツにタイミングを合わせて振り返ると、そこには十歳に満たないくらいの少年が立っていた。


仕立てのいい服を着ているのを見るに、使用人の子供などではなく、彼こそがアレクシスの息子リアムなのだろうと予想がついた。


少年は眉を吊り上げ、顔を赤くして、私を睨みつけている。

気が強そうだ。

なんだか想像と違う。

繊細でなよやかな美少年ではないのか。


「リ、リアム坊っちゃま……! お部屋にいてくださいと伝言したはずですが」


ハインツが困ったように言いながら、チラチラと気まずそうに私を見る。

私に会わせないよう先手を打っていたのに、当の本人が言いつけを守らず出てきてしまったらしい。


アレクシスの言いつけを破る気はなかったし、リアムとは会わずに過ごすと思っていたのだけど。

とはいえ、遭遇してしまった以上、無視をするわけにもいかない。


「ええと、初めましてリアム……様? 私はエリ――」


「ボクはおまえを母親とみとめないからな!」


自己紹介を遮り、リアムが高らかに宣言する。


「あっ、ちょっと!」


あからさまな敵意に呆気に取られている間に、リアムはフンッと思い切り鼻を鳴らし走り去っていった。


「なんだったの……?」


繊細で傷つきやすい深窓の令息という印象は脆くも崩れ去っていた。


「……ずいぶん可愛らしいご子息ですこと」


「大っ変申し訳ございません……!」


にっこりと笑いながらハインツに言うと、平身低頭で謝られてしまう。

いやだ、ちょっと嫌味っぽかったかしら。


「前の奥様がい……亡くなられてから、すっかり心を閉ざしてしまわれて……」


「まぁ、お母様に成り代わろうとしている存在に見えるでしょうし、仕方のないことよね」


私にはよく分からないけれど、母が死んで父が新しい母親を連れてきたら、フィオナは泣き叫んで嫌がるだろうというのは想像できる。

そして暴れ回って、新しい母親に散々嫌がらせをして、その凶行をすべて私のせいにするのだ。


想像だけでうんざりして、ああこの家に嫁いできてよかったと今更ながらに実感する。


フィオナのこれまでの嫌がらせに比べたら、リアムの罵倒なんて可愛いものだ。


それにこちらとしても、息子の存在は今日初めて知ったのだし、母親になろうなんてこれっぽっちも思っていない。


アレクシスにも息子にかまうなと言われているし、しっかり距離をとろう。

そう決意した。


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