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家族に愛されなかった怪物令嬢は、かわいい義息のために最強の継母になります  作者: 当麻リコ
三章 怪物令嬢で師匠で人間で

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38/41

38.セレスティアの思惑

馬の足音に重なるように叫び声が聞こえる。

焦燥と恐怖。

こんなにも取り乱した声を聞いたのは初めてだ。


「エリシア! リアム!」


私たちを見つけて、馬から飛び降りたアレクシスが駆け寄ってくる途中で足を止める。

周囲にはなぎ倒された木々と折り重なって失神している男たち。


「……何が起きたんだ?」


その惨状の中心で抱き合う私たちを見比べて、唖然と立ち尽くす。


「アレク!」


その隙を逃さず、地面を這っていたセレスティアが跳ね起きアレクシスに泣きついた。


「こわかった! こわかったわ! あの男たちが急に襲ってきて……!」


先ほどまでが嘘のような変わり身の早さだ。


「わたくしはリアムを守ろうとしたの! 本当よ! 信じてアレク!」


アレクシスはセレスティアを受け止めもせず私を見た。

説明を求める目だった。

だけどなにを言えばいいのだろう。


彼女が仕組んだのだと直感はしている。

でも決定的な証拠があるわけではない。

私がそう思い込んでいるだけで、本当にただ巻き込まれただけの被害者だという可能性もゼロではないのだ。


なにより、この腕の中のリアムの前で「その女が犯人です」なんて言えるはずがなかった。


「……セレスティア様は、リアム様を逃がそうとして、ここに迷い込んでしまったのです」


アレクシスの眉がぴくりと動いた。

私の声に雑音が重なって聞こえたのだろう。


「なぜ、そんな……」


失望した表情で言いかけたアレクシスに、私はリアムをぎゅっと抱きしめたまま静かに首を横に振った。


今は聞かないでほしい。

この子には聞かせたくない。


アレクシスは一瞬目を見開き、それからすぐに察して頷いてくれた。


「分かった。戻ろう」


深く追及されないことにホッとする。


「さぁおうちに戻りましょう、リアム」


抱き上げたまま言うと、リアムは泣きはらした赤い目をしてこくりと頷いた。


「私はリアムと一緒に戻りますので、アレクシス様はセレスティア様を」


「……ああ。セレスティア、こちらへ」


アレクシスはセレスティアを馬に引き上げて、自分の前に乗せた。


「あぁありがとうアレク! 必ずわたくしを助けにきてくれると信じてたわ!」


セレスティアは自分の言葉が信じられたと思い込んでいるのか、上機嫌でアレクシスにしがみついている。

彼女に向けられたアレクシスの目が、ぞっとするほど冷めていることにも気づかずに。


けたたましい馬のいななきと共に、どっと憲兵たちが雪崩れ込むように現れた。

アレクシスの姿をみとめるなり安堵の顔になる。


「ああやっと見つけました宰相閣下! 奥方とご子息は……えぇ!?」


そして災害跡を目にしてギョッとする。


「この通り妻と子は無事だ。すまないが後始末を頼む」


「は、はっ! かしこまりました!」


隊長と思しき男がアレクシスに敬礼し、すぐに部下たちに捕縛指示を出す。

どうやらアレクシスがこの憲兵たちを連れてきてくれたらしい。


憲兵たちは気絶している男たちを縄にかけて、次々と荷馬車へ運んでいく。


「……なぁオイ、もしかしてこの方って」


「嘘だろ……!? じゃあこっちはマーロウ伯爵の……?」


暴漢たちの顔を検める憲兵たちが険しい顔で話し合うのを背に、私はアレクシスのあとを追った。




屋敷の方も、私が倒した男たちはすでに回収されていた。


庭だけでなく、屋敷内にも暴漢は侵入していたらしい。

使用人たちが割れた窓ガラスや食器を片付けたり、憲兵に事情を説明したりしている。

護衛騎士を屋敷に走らせたのは正解だった。

怪我人がいないことを確認して、ようやく息をつく。


泣き疲れて眠ってしまったリアムを部屋に寝かせて、私たちは応接室に場所を移した。


「本当に恐ろしかったわ。わたくし、リアムを守るのに必死で……」


ソファに座るなり、セレスティアはまた被害者の顔で語り始める。

私がなにか余計なことを言い出す前に物語を作り上げてしまえば、黙るとでも思っているのか。


「あなたが襲撃させたのですよね?」


私はそれを遮って、静かに切り出した。


「……は? 何を証拠にそのような愚かなことを」


「襲撃者たちの動きは訓練されたものでした。わざわざゴロツキのふりまでさせて、ずいぶんと手の込んだことをして、どういうおつもりですか」


「知らないわよ! 嫉妬でわたくしを悪者にする気? ねぇアレク、この人こわい!」


セレスティアが涙目でアレクシスに助けを求める。

けれどアレクシスの目は冷たく、明らかにセレスティアを疑っていた。


「嫌よアレク……どうしてわたくしをそんな目で見るの……!?」


今にも泣きそうな顔で、ショックを受けたというようにセレスティアがゆるく首を振る。

か弱い女性の得意技だ。

妹で見飽きたその仕草に吐き気を覚える。


けれど大抵の男性はその小動物のような仕草にころりとやられてしまうのに、アレクシスは私と似たような白けた顔でセレスティアを見ていた。


「昨夜戻る予定だったがどうでもいい用件で足止めを食らってな。それがメイソンの手の者と判明して、嫌な予感がした。制止を振り切って戻って正解だったよ」


そこで言葉を切って、アレクシスが私を見る。


「……いや、正解などではないな。泳がせると判断した結果、君とリアムを危険にさらしてしまった。本当にすまない」


静かな声に、押し殺した自分自身への怒りが滲んでいる。

だがアレクシスも、まさかこんな早く彼女が行動に出るとは思わなかったはずだ。


セレスティアの言動は確かに怪しかったが、まさかここまでするとは思っていなかった。

楽観視して王宮に送り出した私にだって落ち度はある。


「あなたは私を信じてくださっただけ。私は見事その信頼に応えられたでしょう?」


わざと胸を張って見せると、アレクシスはようやく少しだけ表情を緩めてセレスティアに向き直った。


「たしかメイソンは君の下僕だったよな」


「下僕だなんてひどい! メイソンは親切なおじさまというだけよ!」


心外だと憤慨しているが、きっとあの小動物の顔でいいように操っているのだろうことは容易に想像できた。


「ではメイソン様はアレクシス様が遣わせたのではないのですね?」


「……ヤツがここに来たのか?」


「ええ。アレクシス様から預かり物があるとセレスティア様に」


確信をもって尋ねると、アレクシスが長いため息をついて頭を抱えた。


「なるほど、それが決行の合図か」


「革袋の中にメッセージでも仕込んでいたのでしょうね」


やはりメイソンもグルだったのだ。

合点がいってセレスティアを睨むと、彼女はすっかり涙の乾いた冷めた目をしていた。


「はぁ。あなたっていつもそう」


がらりと態度が変わる。


「お父様も他の貴族もみんなわたくしを大好きなのに。みんななんでも言うことを聞いてくれるのに、あなただけがわたくしに冷たい。大嫌いよ」


責めるような口調で言い放って、次に私をキッと睨んだ。


「あなたも嫌い。わたくしの場所を奪っておいて偉そうに。返してってお願いしたのに、ひどいわ。だからもうお願いするのは諦めたの。あなたが死んでくれれば、全部わたくしのものになるでしょう?」


あまりに幼稚な発想だ。

けれど本当にそうなると思い込んでいる無邪気な顔にゾッとする。


「なのに、全然死なないんだもの。騎士団の人たちに頼んでもダメ。でたらめよね」


「……やはり、あれは第一騎士団の」


むくれた顔のセレスティアに、アレクシスが低く呟き深いため息をついた。


第一騎士団といえば、この国の顔ともいえるエリート騎士たちの集団だ。

王族の護衛や王宮内の警備を任されるため、高位貴族の子息のみが入団を許されるという。

第一騎士団所属ということを誇示する人間ばかりのため、たいていの貴族は第一騎士団のメンバーを把握しているらしい。

憲兵たちがざわついていたのはそういうことか。


「どうりで今までとは桁違いに強いと……」


私の師であるディートリヒの所属している第二騎士団と違って、実力よりも家柄が重視されるため、お飾りだのハリボテだのと揶揄されることもあるらしいが、それでも王族の護衛を任されているのだ。腕は確かだった。


「それを一網打尽か? まったく、君という人は本当に」


呆れというより感心を滲ませながらアレクシスが微かに笑う。

それが面白くなかったのだろう。セレスティアがふんと鼻を鳴らした。


「ちょっと力が強いだけって聞いてたのに。話が違うじゃない」


その言葉に引っ掛りを覚える。


「……誰に、聞いたのですか」


自分で聞いておいて笑いそうになる。

私のギフトを知っているのはアレクシスとリアムを除けばほんの少しだけ。

しかも怪力だけだと信じ込んでいる人間なんて。


「あなたの可愛い妹さん」


夢のように美しい笑顔で、セレスティアは答えた。


「可哀そうに。聞いていないのでしょう? わたくしが教えてさしあげる」


憐れみを込めた口調で、勝ち誇ったように続ける。

それが私への攻撃になると、分かっているように。


「あなたの結婚はね、リアムを殺すための手段のひとつなの」


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