道安720分クッキング(下準備含む)
翌日の王城の厨房。
王族の食事のためだけに使用されるそこを貸し切って、ここには道安と親平、そして明らかにウキウキしている王の三人だけがいた。
正確には扉の外に王の護衛、天井裏や柱の中には影の者がいるが、これはいつものことで、誰も気にしなかった。
王は、今日この日を「秘密の公務」として時間をとっている。 完全な職権濫用だが、今更である。
そもそも普通の手続きをしていては道安の食べている得体の知れないショージンリョーリは口にできないだろうし、調理過程に時間を割くなど夢のまた夢だ。
それでも元来好奇心旺盛な王は、国のために使い切るべきリソースの一部をフル回転して今回の機会を作った。
食は、最も基本的な人を作る基盤であり、最も一般的な悦びであり、最も尊い芸術である。誰がこの王を責められようか。責められまい。
王は言い訳を頭の中に唱えながら、道安の手際を観察し、疑問があればすかさず質問していた。
「素人目にも手慣れているな。ゼンソーとは料理人も兼ねているのか?」
「あながち間違いではないかもしれませんね。私の宗派では腕前関係なく、ほとんど全員包丁を握ったことがあるはずです。もちろん得意不得意はありますが、それを問題としないのが本職の料理人との違いでしょうか」
「ホージョーサンは不得意なのか?」
道安はかすかにニヤっとする。
「正直、得意なのでは? と思ってしまうのが、私の未熟なところですね」
王は楽しそうに笑った。本当にそう思っているのかはさておき、あの道安なりに、私をもてなしてくれているのだろうという気遣いを感じた。
道安は華麗な手つきで包丁で野菜を切りそろえていく。
平行してかまどには複数の鍋がすでに火にかけられていて、さらに机の上には半日ほど水出ししている昆布と椎茸があった。
ここで道安が意外なものを取り出す。酒だ。
「道安さん……厳格だと思ってたんですが、それだけは辞められなかったんですね……」
「直接飲むわけではありません。料理酒ですよ料理酒」
「え、お酒って料理に使うんですか?」
親平はあまり料理経験がないらしい。道安は一切馬鹿にせず微笑む。
「仏教には酒を戒める不飲酒戒が確かに存在します。『五戒』という基本の戒めの大トリです。しかし、この『酒』とは具体的には『酩酊』を指します。酩酊が、前の四つを破る原因となるからです」
道安は料理酒を丁寧に測り、鍋に注いでいく。
「だからといって、酒そのものを悪とはしません。上手に料理に使えば、素材の味を最大限引き出すことができます。それが食べる人、食べられる食材のためになるなら、積極的に用いるべきです」
「へぇ~……まさかこっちに来て、故郷の料理知識が増えるとは……」
「今度一緒に作ってみましょう」
道安は、青物と豆を同じ鍋に放り込んで、出汁と塩を調節しながら、味を整えていく。
「流石に味噌と醤油はないので、シンプルに塩と出汁で味付けした菜をメインに据えましょう」
「ミソ? ショーユ?」
「大豆という豆を腐ら……いえ、塩と特定の材料に漬け込むことでできる、調味料です。味付けの基本になりますが、作るのに膨大な時間がかかるので、今回はご容赦ください」
「では次回のお楽しみというところだな。しかし、今回は色々な豆を使うようだな」
道安は再度、かすかにニヤっとして、王の質問に答える。
「私の故郷の伝統料理として、煮豆もお出ししますが……もう一つ、仏法の開祖その人の故郷における料理も用意したいと思います」




