ずっと一緒だよ
魔王が倒れてから丸一日。魔王城にて割り当てられた部屋で、道安は一人坐禅を組んでいた。
この先パージュンとどう接していくか。頭の中を何度も何度も問いが駆け巡っていたが、全てを坐禅で放下した。
坐禅を組み終わったタイミングで、部屋をノックする音が聞こえる。
「……どうぞ」
「……魔王様がお呼びだ」
ケラク直々に、道安を呼びに来た。
魔王が倒れてから半日の時点で、ケラクは道安の様子を見に来た。
ケラクは手当てされた道安の肩を見て、しかし心配や謝罪の言葉は一切口にしなかった。
代わりに、帰ろうとしない道安対して、一言だけ。
「……ほんとうにいいんだな」
とだけ残して、部屋を去っていった。
そして今。道安の部屋から二人で並んで王室へ向かっている。
余計な問答はなかった。
見る者によっては、処刑台に連行される囚人と刑吏にも見えただろうし、共通の信念のもと戦場へ向かう同士にも見えただろう。
前室を通りすぎ、王室の扉が近づく。
前回来た時も不気味なほど静かな空間だったが、今日はその静けさが特別な意味を帯びているように錯覚する。
「……今日は、できる限り、手は出さない」
「……ありがとうございます」
短いやり取りを交わし、ケラクが扉をノックした。
「……魔王様。道安を連れてまいりました」
「…………どうぞ」
中からパージュンの気落ちした声が聞こえる。
ケラクに促され、王室の中に入った道安は、わずかにやつれたパージュンの姿を目にした。
「帰ってきてくれたんだ……あんなことしたのに」
「帰ってきました。敢えて、気にするなとは言いません。でも、今はとりあえず坐りましょう」
努めて調子を変えなかった道安の返答に、パージュンは表情を和らげた。
「んふふ……道安はいつでも変わらないね」
パージュンは椅子から立ち上がり、部屋の隅っこ、いつも二人で坐っていた場所に坐る。
道安は返答せず、代わりに、パージュンの隣に坐った。二人で二炷をこなす。
パージュンの坐相は相変わらず完璧に近いものだったが、今回、道安はパージュンのことを気にすることをやめた。
坐禅としては邪道なものの。初心者と一緒に坐るときは、相手の様子をたまに気にかけていた。
しかし、今回はあえて、ただ隣に坐る者としての坐禅に徹することにした。
きっと、今の彼女に必要なのは、師ではなく、ただ隣に坐る仲間だろうから。
肩の傷は相変わらず痛む。刺した張本人が隣にいる。しかし、それらは全て手放す。
いつもと比べて長く感ずることもなく、短く感ずることもなく。いつも通りの二炷を終えて、道安はパージュンに向き直る。
お互い、向き合っているが、喋らない。
パージュンは気まずそうに目を逸らしたり合わせたりしているが、道安はまっすぐパージュンを見ていた。
執着している側より、自己と他者の分別を手放した側の方が余裕がある。
余裕があるばかりか、純粋に相手を受け止められているのが皮肉だった。
「……道安」
「……なんでしょう」
「私ね、白真に沢山厳しくされて、頭の中を真っ白にされて。考える余裕はないから、感じることにしたの。ここ数日間だけの、でも私にとって一番大切な、道安との思い出。なんであなたが欲しいのか。あなたの何が欲しいのか。手に入れたらどうしたいのか。手に入れた私は幸せなのか。それ私のためになるのか。道安のためになるのか。皆のためになるのか。意味なんてないのか。全部最初からやり直してしまうべきなのか」
「……」
「考えないで、感じてみたんだけどね。道安。何も分からなかった。分からなかったんだよ」
パージュンは涙を流していた。しかし、口調や表情に、一切の揺らぎがないまま続ける。
「でも、本物の……今、私が本物と認識している道安を目の前にして、やっぱり分かった
……………………ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい」
パージュンは、数日前と同じく、道安と自分に対して奇跡を発動した。
「……!」
すぐに坐禅の型を取ろうとする道安をパージュンは抱きしめた。
「道安 。お願い。私のものになって。道安のいない明日なんて考えられない。大好きとか愛しているとか、言葉じゃ言い表せない。ずっと一緒だよ。ずっと一緒だよ道安」




