僧侶二人に、余計な言葉はいらない
「魔王軍に捕まっているって聞いたのに……こんな山奥で修行してたんですか道安さん。話が違うっすよ」
「それは誤解です。先ほど刺されました」
「うわぁ本当だ……早く医者のいるところに帰りましょう」
「いえ、帰りません。魔王城に行きます」
「えぇ……」
僧兵軍団に守られながら行軍していると、たまたま近くにいた親平が合流してくれた。
これで再度魔王城に戻っても、命の危険は大きく減るだろう。
「女神いわく、本来はあなたが私の身代わりになったらしいですが、手違いで初代勇者が魔王城にいるとのことです。大丈夫だという確信はありますが、急ぐに越したことはない」
「初代勇者……とうとう、三人の勇者が敵地にて一堂に会するんですね……!」
なぜかキラキラした目で語る親平。もともとゲーマーだったのか? と道安は雑念を浮かべ、いつものように受け流す。
「……親平さんは、魔王城に着いたら、私ではなく初代勇者さんを送ってください」
「え……でも、どう考えても魔王城に残る道安さんの方が危険じゃ……」
「あなた方は今回巻き込まれてしまった側だ……そして、それ以上に、今回の執着を生んだのは私。私が『魔境』に連れて行ってしまったのなら、私は彼女を放っておけない」
道安は、いつものほほ笑みを浮かべながら、親平にそう伝えた。
「私は自分のことで精一杯の病人で、悪人で。他の人に言わせれば詐欺師か洗脳マシーンらしいですが……それでも、他人の苦を少しでも減らしたい。そう思ってしまう、修行の足りない僧侶なのですよ」
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案外素通りさせてくれた魔王国領土を抜け。相手を刺激しないように、親平を除く最低限の僧兵とともに魔王城を駆け抜け。
再び王室に入った道安が見たものは、異様。しかし、実に親近感の湧く異様な光景だった。
「道安は私。私だったら、もう手中に入っている……」
「そもそもお前はお前を手中に入れているのか? 自分は全てコントロールできているとでも? ではその眠気を今すぐ殺してみせよ」
「眠気は私……? 道安は眠いの……」
「境界線など取っ払ってしまえ。その眠気も、お前が欲しくてたまらない道安も、お前の心が作り出した幻だ。もちろん今ここで説法を垂れてるムカつく坊主も。当然お前自身も。全部殺してしまえ。私は価値あるものですと寄ってくる幻は、全部殺してしまえ」
「……分かった。全部殺す! あ、道安だ! 殺す!」
「ま、魔王様、それは本物の……」
「道安! 帰ってきてくれたのね! 今すぐ眠らせてあ……げる……」
そのまま、ぶっ倒れるパージュン。
ぶっ倒れそうになりつつも、なんとか介抱するケラク。
「……三代目勇者よ。私は貴殿がどうなろうが知ったことではないが……魔王様には休息が必要だ……逃げるも、残るも、好きにしろ……」
ケラクはパージュンを抱きかかえ、どこかに消えてしまった。この「僧堂」と化してしまった王室から、パージュンを遠ざけるために。
部屋に残るは二人。初対面の二人は、お互い向き合いつつも、しばらく沈黙していた。
「……」
「……」
そして、どちらからともなく、深い合掌で挨拶を交わす。
「……道安と申します」
「……白真だ」
言葉はそこで一度途切れる。やや間が会って、白真が口を開いた。
「……あの娘の頭は、我が宗派の流儀で空にしておいた」
さらに少し間を空け、道安が応える。
「……ありがとうございます。目が覚めたら、我が宗派の流儀で手放させます」
合掌の型を崩さぬまま、二人はニッと笑った。
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捨てたハズの鎧を再び身にまとった愛すべき馬鹿者たちを引き連れて、白真は魔王城を後にする。
「……道安さん、大丈夫ですかね……」
こちらも初対面の二代目勇者こと親平は、隣を歩く白真にそう漏らした。
今日が初対面、交わした言葉はごくわずか。
しかし、白真は確信していた。奴の坐禅はなんの解決にもならないが、それでも魔王は奴の隣で心安らかに坐ることになる。
「……あいつの邪魔はせん。奴ならきっと、とりあえず坐らせるだろう」




