禅問答、開催決定
パージュンは、激情のやり場を失くしていた。
目の前にいるのは、風体こそ似ているが、まったく別人の怪僧。
これでまったく関係なさそうな男だったらつまみ出すところだが、剃髪している所や衣装はほぼ同じなので、どうするべきか分からない。
「……あなたは誰?」
「私は白真という者だ。オショーサンだとか、初代勇者とも呼ばれているが。好きに呼んだらよい」
(初代勇者……!)
ケラクは念のため臨戦態勢をとるが、初代は三代目と同じく武力を持たないはずだ。
これが二代目だったら事態は比べ物にならないほど深刻になっていた。
しかし、初代は二代目・三代目と比べ、一番情報に乏しいのも事実。
ケラクは警戒を解かず、パージュンの代わりに話を進める。
「お初にお目にかかる。私は魔王軍の宰相ケラクだ。ここは魔王城にある私の私室だ。さる将軍の娘を預かっているのだが……突然転移してきてまで、私たちに何用か?」
情報が漏れてもさほど問題がないはずの三代目に比べ、素性が最も謎の初代にくれてやる情報はない。ケラクは一芝居打って、パージュンの素性と現在位置を隠すことにした。
今はとりあえず、この初代勇者を魔王様から遠ざけねば。
「私は魔王だよ、白真さん。ここは私の部屋。道安と同じ恰好だけど、あなたも僧侶なの?」
「……! まおうさ……、ぁあ……!」
折角の演技が絶対的トップによりすぐ台無しにされる。ケラクは様々な感情を押さえつけ、高速で初代勇者に向き直った。
「……騙そうとして悪かった 。この方が我々を統べる魔王様だ。先ほどまで、三代目勇者殿がいたのだが、なんらかの理由で貴殿と入れ替わったようだな」
「騙そうとしたことは気にしていない。入れ替わった理由は私にも分からん。だが分からんことを考えても仕方ない」
手短に返した初代勇者はさっさと話を切り上げ、今度は魔王へ話かけた。
「私は道安という者を知らないのだが。 というか、僧侶だと?」
「そう。あなたと同じ頭を剃っていて、坐ってばかりいる僧侶」
「坐ってばかりいる……そいつは、なにか答えのないような問答を投げかけてきたか?」
「いや? こちらから話さないと、基本的にはとても静かだったよ」
白真は確信した。三代目勇者こと、道安の宗派は同じ禅宗で、かつ我々の逆を行く宗派だと。
「……私はその道安と同じく僧侶だが、宗派が違う。目指すところは同じだが、過程が大きく異なるとでも言えばいいか」
「道安と知り合いじゃないの?」
「知らん」
「じゃあ、どうでもいい……あなたなんか、欲しくないもん」
白真の問答センサーが反応する。「欲しい」だと?
「欲しい? 欲しいとはなんぞや?」




