ここでも紡がれていた縁
女神からの念話コールが来る前。
道安は、飛び蹴りを食らわしてきた修行僧から猛烈な謝罪と治療を受けていた。
どうやら「師匠」なる人物とシルエットがほぼ一緒で、道安と入れ替わっていることに気が付かなかったらしい。
「公案」の最中、渾身の回答として師匠に飛び蹴りを食らわせようとしたところ、決行直前に道安と入れ替わってしまったのだから無理はない。
「師匠はもともと勇者として女神教より召喚されました。しかし、私たちを導くため、この山にいま私たちが居るテラを構えたのです。見たところ、あなたも師匠と同じくオショーサンのようだ」
治療を受けながら聞いた話から、道安はその「師匠」こそが親平より前の「初代勇者」なのだと確信した。
王も女神も特に話題にしないものだから聞かなかったが、同じ僧侶だったらしい。和尚さんという呼び方からも、仏教の僧侶であることは疑いようもない。
(そして、「公案」……間違いないですね)
自分と同じ宗派ではないものの、「お隣さん」である彼の宗派に確信を抱いた道安。
道安が一人うなずいていると、包帯代わりの布を巻き終わった修行僧が、道安に静養を勧める。
「はい、とりあえず手当は終わりました。しかし、決して浅い傷ではないはずです。もしよければ、傷が癒えるまでここで静養していっても……」
「そうしたいのは山々なのですが、すぐに発たねばならないのです」
自分のせいで、初代勇者はおそらく魔王城にいること。
そこで魔王が「魔境」に入っているから、放っておくことなどできないこと。
それらの責任は自身にあり、魔王城に戻らなければならないこと。
これらを説明したところ、修行僧は大きくうなずいた。
「……話は分かりました! 我々は仏門をこころざし、一度は武器を捨てた身! しかし、あなたと師匠を守るため、今一度鎧を身に着け、ともに参りましょう!」
「……できれば、殺生は避けていただけると」
「もちろんです! 不殺生戒は当然死守します! ですから、危なくなったらちゃんと逃げてくださいね!」
「……よろしくお願いします」
修行僧は、道安の肩を叩いて、元気よく準備のため去っていった。折角治療してくれたのに、肩が痛い。
でも、そんなこと関係ないくらいの頼もしさを感じた。
道安は、自分のいない所でも、確かに仏教が縁を紡いでいることに純粋な喜びを感じていた。




