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王女、坐る


「おとう様より話しは聞いてるよ、よろしくね~ホージョーサン」


「既に聞いているなら話が早い、早速坐りましょうか」


坐禅を一炷(だいたい 40 分くらい)ほど組んでいると、ようやく服を着てくれた王女が近づいてきた。だいぶ胸元が開いているが、まぁ、着崩している作務衣のようなものだろう。道安はこちらの世界に転生してからルーチンとなっている坐禅の指導に入った。


「まずは壁に向かって坐りましょう……そこのあなた、手伝ってくれますか?」


背中がおもいっきり開いている。こんな作務衣があったら間違いなく不良品だ。そんな下らない思量を流しながら、道安はおそらく侍女の一人に応援を頼んだ。


王の首に直接触ろうとした道安だが、彼にとって女人の身体に触れるのは王に触れることよりも危険なことだった。ちなみに女神の姿勢矯正は口頭だけで頑張った。


僧侶にとって、避けられる煩悩の原因は避けるべきだ。男女を差別するべきではないが、性別関係なく悪い縁からは遠ざかるべきである。


当惑気味の侍女の慣れないサポート越しに、道安は王女の姿勢を正していく。いきなり結跏趺坐ができたか。ちょっと羨ましいな……。私は何年もかかったのに。


余計な思量を次々に流しながら、今度は左右揺振を指導する。


「身体を振り子のように左右に揺らしてみましょう。徐々に振れ幅を小さくして、最終的に中心を見つけるように」


「こんな感じですか? ぽよーんぽよーん!」


揺れている。彼女の胸部とか、私の胸の中とか……


「……もうちょっと、おとなしくで、大丈夫です」


「ホージョーさん目が怖いよ。そんなに胸元見つめられると舞い上がって中心とか分からなくなっちゃうよ」


「仏説摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩

行深般若波羅蜜多時」


「え? なんて?」


流しきれず、とりあえず口慣れた般若心経に逃げた己を道安は激しく悔いた。


世の全てのものには実態がない。五感と心といったものも存在しない、執着する必要はない……


「ホージョーサン、なんかすごいこと言ってるけど、全然意味が分からないよ」


「心が落ち着きました。坐相は良さそうですね。次は調息です」


色仕掛けはあったものの、王女は素直に坐禅を受け入れてくれている。満足のいく状態にもっていたったところで、道安は王女の隣で自身の調身に入った。


やはり坐禅は無敵の姿勢だ。お経を唱えているよりも、周囲から入ってくる情報がぼやけていくのが分かった。王女の肌も言葉も色気も、ただ心を通り過ぎていく風景となっていく。


あくまで指導中であったはずが、道安の坐禅はいつもの坐禅に変わり始めていた。


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