裸なぞ仏法の前では風景
道安には(二代目)勇者の教育を任せたいと言いはしたが、また意味の分からない怪人に戦力を奪われ、山にこもられてはたまったものではない。 前回は奪われたのが軍だったが、現最高戦力である勇者が奪われてしまうのは、王国にとっては死活問題だ。
しかし、今回の召喚条件とこの二週間の感触を信じるなら、彼は「余計なことは語らない、扇動しない、話を遮らない人格者」。彼を試す意味でも、まずは将来、勇者の伴侶となるべき王女の教育を任せることにしたのだ。
うまくいくことが分かれば、夫婦ともども教育を任せる役として丸く収まるし、だめならだめで早めに引き上げて死蔵してしまえばいい。山につれていかれそうになっても、流石に王女一人ならば遅れはとらないだろう。
影の者に「万が一のことがあったら王女の身を守れ、勇者は最悪どうなってもかわまん。できるだけ生かしては欲しいが」とだけ残して、王は部屋を出て行った。
残された道安は王の護衛に連れられて王宮のど真ん中から西の塔のてっぺん、王女の部屋に向かい始めた。
「……流石に王に向かってはっちゃけすぎたか。」
自分の信じる仏法として間違ったことは言っていないが、流石に王に対して無遠慮過ぎたか、と実は道安もややドキドキしていた。
王は威厳がありつつも、わりかし素直に道安の言うことに従ってくれていた。しかし裏では道安に対して悪い感情を募らせていて、おそらく天井裏に潜んでいる影の者に首をはねられるのか、など頭によぎっていたのだ。
しかしそこは長年鍛えた坐禅の精神。浮かんできた考えはそのまま流し、「ああ、意外と自分もビビるものだなあ」と観察するに留めた。ビビっているのは観察したものの、自分の坐禅によってその恐怖も流せたことに、道安は少しだけ鼻をのばした。
「いかんいかん。自らの坐禅を自慢に思うとは。坐禅に良いも悪いもないのに」
そんな誰にも聞こえない独り言をつぶやき、わずかにニヤニヤしていると、王女の部屋に到着した。
「ここから王女の部屋です 。くれぐれも粗相のないように」
「粗相……この二週間、王に対しての言動で問題ないと捉えて良いですね?」
「……くれぐれも粗相のないように」
明確な答えではないが、とりあえず殺されるほど酷いことはなっていないと受け取った。道安は安心して左右の護衛が空けた扉から王女の部屋に入っていった。
「お初にお目にかかります、ホージョーサン。私はルンビーニ王国第二王女、マショーダワです。」
裸で湯船に浸かる美女が柔らかなトーンで挨拶する。偉いと言え、素っ裸で風呂に入りつつ出迎えるやつがあるか。
怒りと煩悩をできる最速で流し、道安は王女に背を向けて結跏趺坐を組んだ。手は法界定印。精神が最も安定する無敵の坐相が出来上がった。
「クスクス。話しに聞いていたよりずっとカワイイ人ですね。ホージョーサン」
あのまっすぐな王の娘か? これが。いや、仏法は全ての衆生に開かれている。王が私に娘の教育を任せたのも、このやんちゃ娘に仏法を出会わせるための縁だったのだろう。
そうであれば、この王女もきっと内なる仏性に気づき、共に修行する仲間になるはず……
「ホージョーサーン。ねーこっちむいてー」
「……」
道安は、考えるのをやめた。久しぶりに、坐禅の初心者だったころの、「考えるのを意図的にやめる」感覚を思い出した。




