坐禅の目的 is なに → ない
それから一週間が経って、王は確信した。分からん。少なくとも、一週間かそこらで分からない何かを体験していることを確信した。
しかし、目的が無いと道安は言っているが、王の身には確かな変化があった。まず、腰が楽だ。座りっぱなしなのに、いつもの腰痛がない。
そしてなぜか、大臣どもの言っていることがやたらと頭にスッと入ってくるようになった。前までは議題が変わると眠い頭はついていくのがやっとで、ただでさえ頭の痛い国の問題が本物の頭痛に変換されていた。しかし、道安と一緒に坐り始めてからというもの、なぜか頭が冴え、聞くのも嫌だった議題に対しても、まるで川が流れるように答えが浮かんでくるようになった。
「これが坐禅か。道安よ、これを私に教えたかったのだな」
理屈は分からなかったが、王は道安の狙いを言い当てたつもりだった。
「まったく関係ありません」
「は?」
「坐禅に目的はありません。強いて言うならば、自己を解体するためのテクニックと言うのはありかもしれませんが。王よ、あなたはこの国が大切ですか?」
前半はやはりさっぱり分からなかったが、後半はいきなり当たり前のことを聞いてきた。王はすぐに答える。
「当然だとも。この国が大切だ。この地も、民たちも」
「そうでしょう。それはあなたはこの国であり、民はあなただからです」
また訳がわかならいことを言い出したか、と思ったが、よくよく考えてみると、口が上手い貴族に似たようなことを言われたことを思い出した。あなたそのものがまさにこの国なのだと。
「そうやって私をおだてているのか?」
「違います。あなたと他者を分けるのは不可能だということです。もっと言えば、私はあなただし、そこに置いてある机はあなたです。」
「……??」
「全ては縁です。あなたから見えている国や民、私や机は、あなたが作り出した縁に因るものです。では、それらとあなたを分かつものはなにか。そんなものは無いのです。いえ、あるかもしれませんが、我々にそれは絶対分からない。自分というものに根拠などない」
「……」
「だから、それに気が付くために、坐るのです。ために、と言いましたが、目的はありません。とりあえず、あなたも坐りましょう」
「……代わりに座らせたい者がいる」
とりあえず、道安が我々を害する者ではないことが分かった王は、道安をより頭の明晰な者に丸投げすることに決めた。もう自分の執務を溜めるのも限界だし、とりあえず妙な思想を吹き込まれたところで、マイナスの方向に行くことは無さそうだ。
「まずは私の娘、王女の教育を任せたい」




