崩壊する氷山
次の日。
パージュンの坐相は変わらなかった。
しかし、道安の気のせいか、パージュンが壁の向こうに、「何か」を見ているような気がした。
坐禅の後。
当たり障りのない会話。ただ、パージュンに促されて、道安の故郷での暮らしについての話題が多かった。
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次の日。
パージュンの坐相は変わらなかった。
ただ、あまりにも動かない。「自然」なブレすらなかった。
坐禅の後。
「道安。色々難しい立場かもしれないけどさ。よければ魔王城に住んじゃいなよ。友達もできたんでしょ?」
「看守さんや料理長さんですか? 彼らが私をどう思っているかは分かりませんが、ぜひ一緒に坐りたいところですね」
「! じゃ、じゃあ」
「しかし、私は既に連合王国でも縁を結んだ方々が居ます。あなただって大切ですが、私は分け隔てなく皆と坐りたい。『現時点では』ここに居を構えるのは難しいでしょう」
「……そう」
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次の日。
パージュンの坐相は変わらなかった。
ただ、道安の直観が、何かを訴えかけている。その訴えは、言葉にしがたいものだった。
しかし、あえて言うなら、今のパージュンは「純粋のその先」。それに支配されているように思えた。
坐禅の後。
パージュンはとても穏やかだった。
話の内容はごく普通なのだが、表情だけが、坐禅中のものに似たなにかだった。
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パージュンの中で、道安が何気なく言った言葉がずっと反響してる。
「一緒に坐ってくれる仲間の存在が心強かった」
「理解者が欲しいのかもしれません」
「『現時点では』」
「あなただって大切」
道安に褒められた心持で、それを深追いせずに留める。
しかし、留めたからこそ。思考の先、誰よりも純粋な心の中に、道安という他者が根を張る。
……。
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愛すべき同胞は、私の奇跡を疑わない。 魔王国による、完全無欠の救済を、疑わない。
私も、これが最善だと信じている。
しかし、一方で私だけが直観していることがある。
誰もが生き返る世界。しかし、私だけは、なぜ死なないと言い切れるのか?
私自身、なぜ生まれてきたのか記憶すらない。記憶の最初、私は既に、ここに「在った」。
始まりが分からないのに、なぜ終わりがないと言い切れる?
私が死んだら、この奇跡に依存した楽園は、どうなってしまう?
――今まで、あいまいにしてきたことが、坐禅によってハッキリわかった。
私に、きっと終わりはやってくる。
周りにうかされて、私まで「永遠」に酔ってきたが。
それが虚構であることを確信した私に、初めての感情が芽生えた。
終わりがあるからこそ、今が尊い。つまり、今手に入れなければ、私の死によって、それは永遠に手に入らない。
欲しい。仲間が、理解者が、一生隣で坐ってくれるひとが、欲しい。
道安が。欲しい。
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次の日。
パージュンの坐相は変わらなかった。
しかし、道安は隣で坐りつつも、確信する。悪寒を流しきれない。
氷山が、動いている。雪崩が――
坐禅の最中。
半眼の奥へぼんやり映っている壁の風景に、いきなり、目を見開いたパージュンが入ってくる。
パージュンは、初めて意図的に、「最高の快楽」を道安と自分に流し込んだ。




